おはようございます。
今日は、退職の自由を不当に侵害した行為等に基づく慰謝料請求に関する裁判例を見ていきましょう。
リンクスタッフ事件(東京地裁令和6年2月28日・労判ジャーナル150号16頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、未払賃金及び付加金等の支払を求め、Y社及び代表取締役Bに対し、B及びY社従業員らに逮捕・監禁され、引継ぎの問題があるため退職を認める考えはなく、退職を強行した場合にはX及びその両親等に対し少なくとも500万円以上の損害賠償を請求するなどと記載された通知書に署名することを強要されたなどと主張し、連帯して、治療関係費、宿泊代、慰謝料等の支払を求め、Y社が、Xから社宅の鍵を返還させた後、当該社宅をXの送達先とした上、内容虚偽の支払督促の申立てを行い、これが真実であると裁判所を誤認させて支払督促製本を取得し、このようにして取得した支払督促正本に基づき仮執行宣言を申し立てたという一連の行為が訴権濫用に当たるとして、連帯して、慰謝料等の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
一部認容
【判例のポイント】
1 Y社が、Xに対し約5時間にわたり繰り返し本件通知書の受領及び本件受領書へのサインを求めた行為は、Xに対し、Xが当初希望した退職日に退職した場合には、X及び両親等に対し、合理的な根拠のない高額の損害賠償請求をすることを示し、退職を翻意させようとしたものであり、Xの退職の自由を不当に制限するおそれがある不相当な手段であったと認められ、また、Y社はX他3名の従業員の社宅として家賃月額13万円のビルを借り受け、X他3名に対し社宅として一人当たり賃料月額3万5000円で使用させていたことが認められるところ、Y社従業員Dが、令和3年5月21日、Xに対し社宅の鍵を返還させた行為は、Xの社宅の利用権を侵害するものであり、違法であり、Y社は不法行為又は使用者責任に基づき、Bは会社法429条1項に基づき、連帯して、Xに対し、慰謝料及び弁護士費用合計17万6000円を支払う義務を負う。
引継ぎもせず、ある日突然、退職代行から連絡が来る時代です。
会社側がモームリと言いたいときもありますが、それはさておき、このような状況を前提に日頃から労務管理をしていくほかありません。
いかに属人的にならないように社内で情報を共有しておくかが鍵となります。多くの場合、忙しくてそれどころではないとなってしまうところをどう乗り越えるかがポイントとなります。
日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。