おはようございます。
今日は、運行開始前点検行為に基づく未払割増賃金等請求が一部認められた事案を見ていきましょう。
トーコー事件(大阪地裁令和6年3月8日・労判ジャーナル149号58頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、以下の請求をした事案である。
(1)有期労働契約の更新をせず雇止めしたことは違法である(労働契約法19条により更新される)旨主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求(請求1)
(2)(1)を前提に、労働契約に基づき、雇止め後である令和3年7月分から令和4年10月分まで(16か月分)の、月額11万円の賃金(合計176万円)の支払請求(請求2)
(3)(1)を前提に、労働契約に基づき、令和4年11月支払分(末日締め、翌月15日払)から本判決確定の日までの、月額11万円の賃金の支払請求(請求3)
(4)時給1300円との合意を口頭でしたにもかかわらず時給1100円しか支払われなかったと主張し、労働契約に基づき、未払賃金合計20万円の支払請求(請求4)
(5)令和2年9月分の賃金につき、被告の責めに帰すべき事由により労務の提供ができなかったと主張し、労働基準法26条に基づき、又は労働契約に基づく民法536条2項による、1か月分の給与11万円の支払請求(請求5)
(6)始業時刻前に、アルコールチェック等の作業を指示され、1日当たり30分の残業が生じていた旨主張し、労働契約に基づき、合計9万9000円の支払請求(請求6)
【裁判所の判断】
Y社は、Xに対し、1万4300円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 Xは、渋滞等のアクシデントに備えて早めに出勤していたことはうかがえる。しかし、出勤後から始業時刻までの間、常に労務を提供していたことを裏付ける証拠はなく、Xの供述によっても、出勤後から始業時刻までの間、継続して作業を行っていたものとは認められない。また、FがXに対して交付した文書には「①は7:00出発、②は7:15出発。皆さんはそれに間に合うように出社されています。」と記載されているのであって、被告が、業務命令として出発時刻の30分前の出社を指示していたことを認めるに足る的確な証拠はない。
もっとも、出発時刻である午前7時又は午前6時50分より前に、バスの乗務という労務提供の前提となる作業として、アルコールチェック、運行開始前点検(車両を目視及び運転席で確認する。)、運転前チェック項目のチェック等の作業があることが認められ、これらは被告の指揮命令下における労働時間と評価できる。これらの作業に必要な時間は1勤務当たり5分と認める。
原告が勤務したと証拠上認められる日における出発時刻前の労務提供の前提となる作業に要した時間は以下のとおり、合計13時間となり、これに対する未払賃金は1万4300円となる。
アルコールチェック、運航開始前点検、運転前チェック項目のチェックは労働にあたりますので、運送会社の皆様、ご注意ください。
日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。