解雇416 機密情報の私的領域への複製等を理由とした退職予定者の懲戒解雇が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、機密情報の私的領域への複製等を理由とした退職予定者の懲戒解雇が有効とされた事案を見ていきましょう。

伊藤忠商事事件(東京地裁令和5年11月27日・労経速2554号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を退職予定であったXが、令和2年7月3日付け懲戒解雇の無効を主張して、Y社に対し、①本件懲戒解雇が無効であることの確認を求めるとともに、②不法行為に基づく損害賠償として本件懲戒解雇の翌日から退職予定日までの給与等に相当する逸失利益及び慰謝料の合計1323万2143円+遅延損害金並びに③退職金として70万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 本件訴えのうち、Y社がXに対して行った令和2年7月3日付け懲戒解雇の無効確認を求める部分を却下する。
 Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則には、職務上知り得た会社及び取引関係先の機密情報を不正に第三者に開示又は目的外に利用すること、その他情報管理規程に違反した場合を機密保持違反として懲戒事由に該当すると定められている(就業規則66条5号)。そして、Y社は情報管理規程及びその下位規則において、機密情報の保持の厳守を定め、機密情報を管理責任者の許可なく複写(複製)することを禁止し、電子化情報の保管・保存には被告が一元管理する会社標準のオンラインファイルストレージ基盤を利用すべきこと等の規律を設け、イントラネットで周知を図ると共に、社内通達で注意喚起するなどして、機密情報の流出・漏洩防止を図っていたものであり、そのことを従業員も認識可能であったということができる。
また、Y社では、Y社Box環境を採用し、所属部署ごとのアクセス制限を行い、本件データファイル1については、プラント・プロジェクト部に所属する従業員にアクセス権限を設定しており(Xには異動後の暫定措置としてアクセス権限付与)、Y社Box環境へのアクセスについても、貸与PCか、Boxのアプリケーションがインストールされた私物スマートフォンやタブレットから、IDとパスワードの入力や、ワンタイムパスワードの入力を要求するなどのアクセス制限措置がとられていた。
2 他方で、証拠によれば、プラント・プロジェクト部内においては、部員が自らの所属課以外の課の案件に関する情報が保存されているフォルダにアクセスすることは可能であったことが認められる。この点、C室長は、各課の共有フォルダにアクセスする場合には、当該フォルダを管理する課の課長などから許可を得るという運用であった旨証言しているが、そのような運用を定めた文書や申請書式は用意されておらず、自身が課長職にあった2年間で一度も申請されたことがないとも証言していることからすれば、共有フォルダに保存されている情報の閲覧範囲は、部内においては事実上制限されていなかったことがうかがわれる。つまり、本件データファイル1が保存されていたY社Box環境は、プラント・プロジェクト部に所属する従業員約50名が、自身の担当案件とは関係なくアクセスできる状況であり、閲覧する情報の範囲についても事実上制限はされていなかったことになる。そして、本件データファイル1が保存されていたフォルダには、極めて多数・多量のデータファイルが保存されており、その中には、同一の用途に用いる作成途上の様々なバージョンのファイルや、過去に利用したレストランの一覧のフォルダなど、およそ機密情報に当たらないものも含まれるなど、ファイルごとの機密性の程度に相当な幅があったこともうかがわれる。
加えて、情報管理規程における機密情報の定義は抽象的で、従業員において、その対象となる機密情報か否かが一見して明らかなものとはいえない状況であった。さらに、個々のファイル等に機密情報であること(例えば、極秘やConfidentialといった記載)が明示されていたとか、情報を取り扱う担当者内でのパスワードによる秘密管理措置が施されていた等の事情も、これを認めるに足りる証拠はない
3 このような就業規則並びに情報管理規程及びその下位規則の定めやY社Box環境における情報の管理・保管状況をも踏まえると、機密情報に接した者が、これが秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理されていたとはいえず、本件データファイル1について秘密管理性を肯定することは困難というべきである。
以上によれば、本件データファイル1について「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)に該当すると認めることはできない。

秘密管理性要件の厳しさがよくわかります。実際、営業秘密として保護するのであれば、実務上の利便性はかなりの部分捨てなければなりません。このトレードオフを甘受できるかどうかだと思います。

なお、懲戒解雇自体は別の懲戒事由の規定により有効と判断されています。

解雇を有効にするためには、日頃の労務管理が非常に重要です。日頃から顧問弁護士に相談できる体制を整えましょう。