おはようございます。今週も1週間がんばりましょう。
今日は、教習指導員資格取得後、3年以内に退職した従業員への立替費用の返還請求が労働基準法16条に違反しないとされた事案を見ていきましょう。
勝英自動車学校事件(東京地裁令和5年10月26日・労経速2554号31頁)
【事案の概要】
本件は、自動車教習事業を営む株式会社であるY社が、従業員であったXに対し、在職中に教習指導員資格を取得するための費用に関する準消費貸借契約に基づき、貸金62万4700円+遅延損害金の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
Xは、Y社に対し、47万9700円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 教習指導員資格は国家資格であること、法令上、教習指導員資格があれば指定自動車教習所において教習指導員業務及び検定業務に従事することができること、教習指導員資格を得るためにはA研修所において研修を受講する方法と公安委員会の審査を受ける方法があること、Y社において教習指導員資格を有する教習指導員として勤務すれば毎月3万円の教習検定手当が得られること、Y社はA研修所において研修を受講している期間もXから賃金の支払を受けていたことが認められる。
教習指導員資格は、それを取得することによって指定自動車教習所において教習指導員業務及び検定業務に従事することができる国家資格でありX個人に帰属するものであるから、本来であれば資格取得者であるX本人が費用を負担すべきものといえる。
当該国家資格を取得すれば、Y社において教習指導員として勤務できることに加え、自動車教習所といった限られた業界内ではあるものの転職活動等で有利になるのは当然であり、Xは、当該資格の取得によって利益を得たといえる。
また、本件準消費貸借契約における契約内容をみても、貸金額は47万9700円であり、教習指導員資格を得てY社において教習指導員として稼働すれば毎月3万円の手当が得られるから、投下した資本について比較的早期に回収することができるといえる。A研修所における研修は、Xが約1か月で修了していることに鑑みれば短期集中型の研修といえ、公安委員会の審査を受ける方法(被告の主張によれば半年から1年程度の期間を要するのが一般的とのことである。)よりも、短期間でより確実に教習指導員資格を取得できる方法であるといえ、Xの早期の収入増加につながるといったXに有利な面もある。
さらに、Xは、A研修所において研修を受講している期間もY社から賃金の支払を受けており、Y社における就労を免除され賃金を得ながら一定の汎用性を有する国家資格を得ることができたといえる。
これらの事実によれば、本件準消費貸借契約の内容は、合理的な内容であるといえるから、Xが本件準消費貸借契約の締結を強制されたということもできない。
上記に加え、返還免除に要する3年間という期間についても特段長期にわたるということはできないことを考慮すれば、本件準消費貸借契約は、退職の自由を不当に制限するとはいえない。したがって、本件準消費貸借契約は、労働基準法16条に反するということはできず有効である。
考慮要素は、概ね以上のとおりですので、裁判所の考え方をしっかり押さえておきましょう。
ていうか、弁護士費用考えたら会社は赤字です。もう資格のための貸付なんてやめてしまったらどうでしょう。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。