賃金285 夜勤時間帯における割増賃金算定の基礎単価は、通常の労働時間の賃金額を基礎として算定すべきとしつつ、趣旨および内容が明確であれば別途の定め方も認容されるとした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、夜勤時間帯における割増賃金算定の基礎単価は、通常の労働時間の賃金額を基礎として算定すべきとしつつ、趣旨および内容が明確であれば別途の定め方も認容されるとした事案を見ていきましょう。

社会福祉法人A事件(東京高裁令和6年7月4日・労経速2562号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結して、Y社の運営するグループホームの生活支援員として勤務していたXが、Y社に対し、夜勤時間帯(午後9時から翌日午前6時まで)の泊まり勤務について、Y社には労基法37条に基づく割増賃金の支払義務があると主張して、①平成31年2月から令和2年11月までに支給されるべき未払割増賃金312万9684円+遅延損害金の支払を求めるとともに、②労基法114条所定の付加金312万9684円+遅延損害金の支払を求める事案である。
なお、退職日の翌日以降の遅延損害金については、原審では年3%の割合による請求であったところ、当審で上記のとおり請求が拡張されたものである。

原審は、夜勤時間帯が労働時間に当たると認めた上で、泊まり勤務1回につき6000円の夜勤手当が支給されていたことに鑑み、夜勤時間帯から休憩時間1時間を控除した8時間の労働の対価を6000円とすることが労働契約の内容となっていたと認定し、割増賃金算定の基礎となる賃金単価を750円としてこれを算定して、Xの請求を、①未払割増賃金69万5625円+遅延損害金、②付加金69万5625円+遅延損害金の支払を求める限度で認容したところ、Xが控訴し、前記1のとおり遅延損害金請求を拡張した。

【裁判所の判断】

 原判決を次のとおり変更する。
 Y社は、Xに対し、331万5789円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、Xに対し、付加金312万9684円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 当裁判所は、夜勤時間帯は労働時間に該当すると認められ、夜勤時間帯についての割増賃金の額は通常の労働時間の賃金額を基礎として算定すべきであり、そうすると、Xの請求は全部理由があると判断する。

2 Y社は、夜勤時間帯から休憩時間1時間を控除した8時間の労働の対価を夜勤手当6000円とする旨の賃金合意があったから、夜勤時間帯の割増賃金算定の基礎となる賃金単価は750円となると主張する。
しかし、Y社は、これまで、グループホームの夜勤時間帯にY社の指揮命令下で生活支援員が行うべき業務はほとんど存在しないという認識を前提として、就業規則においては、巡回時間を想定した午前0時から午前1時までの1時間を除き、夜勤時間帯を勤務シフトから除外し、本件訴訟においても、夜勤時間帯については緊急対応を要した場合のみ申請により実労働時間につき残業時間として取り扱う運用をしていると主張し、夜勤時間帯が全体として労働時間に該当することを争ってきたものであって、XとY社との間の労働契約において、夜勤時間帯が実作業に従事していない時間も含めて労働時間に該当することを前提とした上で、その労働の対価として泊まり勤務1回につき6000円のみを支払うこととし、そのほかには賃金の支払をしないことが合意されていたと認めることはできない
労働契約において、夜勤時間帯について日中の勤務時間帯とは異なる時間給の定めを置くことは、一般的に許されないものではないが、そのような合意は趣旨及び内容が明確となる形でされるべきであり、本件の事実関係の下で、そのような合意があったとの推認ないし評価をすることはできず、Y社の上記主張は採用することができない。

非常に重要な高裁の判断です。

上記判例のポイント2を参考に賃金体系を変更する場合には、決して、素人判断でやらないことです。多くの場合、不利益変更になりますし、やり方を間違えると残業代の基礎賃金が増額することになりますので、細心の注意が必要です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。