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配転・出向・転籍57 配転命令拒否を理由とした解雇を有効とした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、配転命令拒否を理由とした解雇を有効とした事案を見ていきましょう。

医薬品製造販売業A社事件(横浜地裁令和6年3月27日・労経速2559号20頁)

【事案の概要】

本件は、労働者であるXが、令和4年1月24日付けで行われた同年4月1日にb本社へ転勤させる旨の命令及び同年3月30日付けで行われた解雇の意思表示が、いずれも無効であると主張して、雇用契約に基づき、Y社に対し、①Y社との間で雇用契約上の権利を有することの確認及び②Xがb本社で勤務する義務がないことの確認を求めるとともに、③同年5月1日以降の賃金(バックペイ)として、令和4年5月1日から本判決確定の日まで、毎月25日限り、47万7500円(月給)、毎年7月31日及び12月31日限り、各98万9500円(賞与)+遅延損害金の支払、④割増賃金41万3050円+遅延損害金の支払、⑤令和4年4月分賃金につき、欠勤を理由に減額されたことは不当であるとして、未払賃金8万9133円+遅延損害金の支払、⑥Xに対して行われたハラスメントについて、Y社の安全配慮義務違反があると主張して、損害賠償金110万円(慰謝料100万円、弁護士費用10万円)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、20万6107円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、本件配転命令につき、①業務遂行能力及びチームマネジメント能力の見極めを業務上の必要性として挙げているほか、②環境を変え、新たな同僚や上司の下、業務遂行能力及びマネジメント能力を発揮するよう、人材活用を図ることについても、業務上の必要性に当たると主張している。
この点、Xは、本件試用期間延長措置が無効である以上、Xの業務遂行能力及びチームマネジメント能力の見極めの必要性はないかのような主張をしているが、雇用契約が継続している限り、使用者は、職員の配置のほか、賞与額の査定、昇給や昇格等、人事上の措置を講じるに当たり、様々な場面で、従業員の能力を見極め、その評価を行う必要があるのが通常であって、このような必要性は、試用期間中であるか否かを問わず肯定されるものであって、これに反するXの主張は、採用し得ない。
Xは、能力の見極めや、Xの能力の活用を図るのであれば、dオフィスに所属したままでも可能である旨主張しているが、Xは、最初に担当することになったO社PJで、派遣社員であるHから、Xによるパワハラ被害の申告を受け、そのような状況に陥った原因について、O社PJのメンバーであるHやPの能力不足と共に、F課長代理の指導力不足を強調していたものである。dオフィスは、Xを除けば、正社員がF課長代理とGの二名しかいない小規模な研究施設であって、GはXよりも10歳以上も年下であり、Xに対する能力の見極めや指導は、dオフィスにいる限り、F課長代理が行わざるを得ない状況にあったというべきところ、信頼関係が損なわれたF課長代理の下で勤務をさせるよりも、E部長を含め人員の充実したb本社で勤務をさせた方が、X自身の本来の能力が活かされ、より目の行き届いた形でその能力の見極めが可能であると判断したY社の決定は、十分に合理性のあるものというべきである。
また、Xは、Hが週報作成の前提となる実験ノートを作成できておらず、Pの日報や実験ノートにも不備が多かったにもかかわらず、F課長代理が適切な指導を行なわなかったことを論難し、問題の所在であるF課長代理を異動させるべきであった旨主張しているが、そもそも、職員の能力不足や経験不足は、上司の指示、指導や教育などによって直ちに改善するものではなく、F課長代理が的確な指導を行っていたとしても、Xが感じていたH及びPの能力不足や経験不足に起因する問題が、解決されたとは思われない。

2 本件配転命令は、D市にあるdオフィスから、b本社への異動を命じるものであり、転居を伴う転勤命令であって、従業員であるXの私生活に、一定の影響を与えるものであること自体は疑いがない。
もっとも、給与その他、勤務地を除く労働条件については、本件配転命令により変更されるものではないほか、Y社は、転勤規程(書証略)を設けて、家具移転費用、転勤交通費、転勤一時金、賃貸住宅費用補助等の名目で、転勤にともなう諸経費の会社負担を認め、単身赴任者については、毎月1回の帰省手当を支給するなど、転勤に伴う経済的な負担を軽減する制度を定め、また、その案内をXに対して行っている。
そのほか、Xは、E部長やM取締役の入社時の面接においても、b本社でなければできない研究や実験があるとの認識の下、業務上の必要性があるのであれば、b本社への異動が可能である旨回答していることも踏まえれば、本件配転命令がB市への転居を伴うこと、単身赴任をするか、自宅周辺で就労している妻を退職させ、妻と共にB市に赴任するかいずれかを選択する必要が生じていたことといった事情を考慮しても、本件配転命令が、労働者に対し、甘受し難い不利益を与えるものとは言い難いというべきである。

3 以上によれば、本件配転命令は、業務上の必要性に基づくものであり、他の不当な目的・動機をもってなされたものであるとも、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとも認められないというべきであるから、Y社に裁量権の逸脱はなく、これが権利濫用であるとのXの主張は採用し得ない。

職員の能力不足や経験不足は、上司の指示、指導や教育などによって直ちに改善するものではないと、至極当たり前のことが述べられていますが、このような当たり前のことを裁判所に認定してもらうとなんだかほっとします。

配転命令を行う場合には、事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。