おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。
今日は、試用期間中の解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。
日本コーキ事件(東京地裁令和3年10月20日・労判1313号87頁)
【事案の概要】
本件は、Y社との間で労働契約を締結し、試用期間中に解雇されたXが、解雇が無効であると主張して、Y社に対し、①労働契約上の地位を有することの確認を求め(請求1項)、②未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払(請求2~4項)を求めるとともに、③解雇が違法であるとして、不法行為に基づき、損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払(請求5項)を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 Xは、採用の申込みに当たり、①添え状に、ステンレス、アルミニウム、チタン等のTIG溶接を主に経験してきたことや、板厚も1mmから20mm位までのあらゆる形状のものを製作してきたこと、②履歴書に、TIG溶接が得意であること、③職務経歴書にも、c社においてTIG溶接の技術指導を行ってきたことや、金属加工業を営む会社でアルミ溶接の専任として勤務したことなどを記載している。これらの記載を素直に読めば、Xが、母材の種類や厚みを問わず、商品化に耐え得るだけのTIG溶接の技術力、あるいは、少なくとも専門学校等を卒業したばかりの者に期待される水準を上回る技術力を有し、溶接グループにおける即戦力として期待できるものと受け取るのが自然である。
2 Xは、採用面接と併せて実施された作業テストにおいて、ステンレスのTIG溶接を満足に行うことができなかったものの、①ステンレスの薄物のTIG溶接についても、経験があり、勘を取り戻せばできる旨や、すぐに勘を取り戻せる旨を述べていたこと、②TIG溶接の手順自体は習得していたこと、③作業テストは長くても20分ないし30分程度のものであったこと、④前記の添え状、履歴書及び職務経歴書が提出されていたことからすれば、Xの上記発言を信じ、試用期間中の作業内容を吟味して本採用するか否かを決定することとしたことには、合理的な理由があるというべきである。
しかるに、Xは、濾過機を構成する部品のうち、専門学校等を卒業したばかりの者が製作目標とするような、上蓋ストッパーや圧力スイッチカバーを満足に製作することができず、複数の母材を溶接することさえ要しない引っ掛けドライバーについても曲げる部分の位置や角度を統一することができず、Xが製作した製品のほとんど全てが商品にならないものであったから、Xの実際の技術水準と、履歴書等の各書類や作業テスト時におけるXの言動から期待される水準との間には、相当程度の乖離があったと認められる。
さらに、Xは、C課長から溶接不良の箇所をマーカーで示しながら、溶接が過剰な部分があり、ムラが生じていることや、溶接すべき部分がずれていることなど、溶接不良の原因について具体的な指摘を受けていたにもかかわらず、Y社代表者との面談において、溶接のポイントがずれているという指摘がいかなる趣旨であるか理解できないなどと述べ、その後も溶接不良が改善されなかった。
そして、Xが本件解雇までに製作した製品の数は合計で数百点に及び、Xの技術水準を判断するには十分であったと認められるから、Y社において、試用期間の満了を待たずに、Xが期待された技術水準に達する見込みがないと判断したことにも合理的な理由があるというべきである。
以上の諸事情に照らせば、本件解雇は、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる。
理屈は非常にわかりやすいですね。
大切なのは、裁判所にこのように認定してもらうために、上記の事実を裏付ける証拠をどのように収集するかという点です。
解雇を有効にするためには、日頃の労務管理が非常に重要です。日頃から顧問弁護士に相談できる体制を整えましょう。