管理監督者61 部長職の管理監督者該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、部長職の管理監督者該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

ネクスコン・ジャパン事件(大阪地裁令和3年3月12日・労判1313号98頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、①平成28年12月21日から平成31年2月20日までの間に時間外労働を行ったとして割増賃金+遅延損害金の支払、②年俸の一部(賞与とされている部分の一部)が未払いであるとして、未払額+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 職務内容・権限及び責任の重要性について
a Xは、Y社の営業管理部の部長であったところ、Y社において部長職にあったのは、Y社及びCの2名であり、Xより上位の職にあったのはY社代表者らの取締役のみであったものである。そうすると、Xは、Y社において、取締役に次ぐ高位の地位にあったと評価することができる。
b また、Y社では取締役会が開催されていたところ、取締役会の参加者はY社代表者、取締役2名、X(経営管理部長)、C(技術開発部長)、営業部次長の6名であり、その参加者の役職及び会の名称に照らせば、Y社の経営方針の決定等に関する重要な会議であったということができる。そして、Xは、取締役会に出席して、業務、決算、事業計画等について、報告や意見を述べるなどしていたものであるから、Xは、Y社の経営方針の決定に参画していたといえる。
c さらに、Y社はデジタル端末機用バッテリー保護回路製造業、リチウムイオン電池用保護回路の設計、開発、製造、販売及び輸出入等を業とする株式会社であったところ、Xは、不動産事業に関する社外講座を受講するなどした上で、平成30年5月に、これまでの事業とは異なる不動産事業及び人材紹介事業という新規事業に参入することを立案し、新規事業計画書を提出している。しかも、同新規事業に関する一連のやり取りをみると、XがあたかもY社で不動産事業及び人材紹介業を行うことが決定事項であるとして取締役に対し、住民票の提出を求めたのに対し、Y社代表者が更なる協議や定款変更の手続が必要であるとの意見を述べたが、Xは、Y社代表者に対し、定款変更が取締役会の決議事項ではなく株主総会の決議事項であるとしてY社代表者の誤りを指摘すると共に、新規事業計画書提出するという推移をたどっているところ、このような時系列やメールの文面に照らせば、Xが積極的に新規事業計画を立案し、取締役らに対し、提案していたことが明らかである。そして、新規事業を行うというのは正に経営に関する事項である。
d 加えて、Y社においては、平成30年4月頃、売上げが減少し、会社の規模が縮小していくなどの理由からリストラが計画されていたところ、リストラが、企業の経営に大きな影響を与える極めて重要な施策であることはいうまでもない。Xは、誰かから指示されたものではなく、自らリストラを立案して提案し、リストラ計画の責任者として、平成30年4月19日にY社代理人事務所を訪問し、リストラの時期、対象者の選定、対象者への説明について協議し、削減対象者との面接も行うなどしているところ、このようなXが果たしていた役割に照らせば、Xが、リストラというY社における重要な施策の中心的立場にあったということができ、ひいては、経営の中枢に参画していたものといえる。
e Xの供述を前提とすれば、Xは従業員の出勤簿の承認欄に押印していること、勤怠管理システムが利用できない場合にはX宛に残業時間を申告するよう指示していることが認められるところ、かかる事実からは、Xが従業員の労働時間の把握という労務管理をする立場にあったということができる。
f Xは、労働組合との団体交渉に会社側担当者として出席していたところ、団体交渉の意義に照らせば、労使双方が必要資料等に基づき、賃金や賞与の額等の交渉事項について協議を行っていくものであり、会社側担当者として出席するためには、交渉事項について、事前の準備・検討が必要であることがいうまでもなく、Xが、会社側担当者として、事前の準備・検討を行った上で団体交渉に出席し、実質的な協議に臨んでいたことは既に説示したとおりである。そうすると、Xは、Y社の経営に関与していたと評価することができる。
g 以上に加えて、XがY社の貴重品を管理する立場にあったことなどをも併せ考慮すれば、Xは、Y社において、対外的にも対内的にも重要な職務に関与していたものであり、その権限及び責任は重要なものであったと評価することができる。

珍しく管理監督者性が肯定されています。

このような働き方をしている「部長」が世の中にどれほどいるでしょうか・・・。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。