派遣労働33 紹介予定派遣就業者との労働契約の成否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 本年もどうぞよろしくお願いいたします。

今日は、紹介予定派遣就業者との労働契約の成否に関する裁判例を見ていきましょう。

任天堂ほか事件(京都地裁令和6年2月27日・労判1313号5頁)

【事案の概要】

(1)Xらは、紹介予定派遣によってY社で就労していたところ、派遣期間満了後、Y社はXらを雇用しなかった(ここでいう紹介予定派遣は、労働者派遣法2条4号所定のものである。)。
(2)XらのY社らに対する請求の概要は、以下のとおりである。
ア Xらは、XらとY社との間に直接の労働契約が成立したと主張して、Y社に対して、前記第1の1のとおり、それぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに未払賃金+遅延損害金の支払を求めた。
イ XらとY社との間の労働契約が成立したとは認められない場合の予備的請求として、Xらは、Y社によって、Y社に直接雇用されるとの合理的期待を侵害されたと主張して、Y社に対して、前記第1の2のとおり、不法行為に基づく損害賠償(Xそれぞれにつき800万円)+遅延損害金の支払を求めた。
ウ Xらは、Y社で就労中、Y社の被用者であるY2からパワーハラスメントを受け、Y社に苦情を申し出ても対処されなかったと主張して、前記第1の3のとおり、Y2に対しては不法行為に基づき、Y社に対しては使用者責任又は安全配慮義務違反の不法行為に基づき、損害賠償(原告それぞれにつき100万円)+遅延損害金の連帯支払を求めた。

【裁判所の判断】

Y社らは、Xらに対し、連帯してXら各自につき10万円+遅延損害金を支払え。
Xらのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xらには、派遣期間満了後に直接雇用されるとの合理的期待が認められることから、Y社が直接雇用を拒否することは許されず、派遣期間満了時にY社との間で労働契約が成立するというものである。
紹介予定派遣は、派遣期間満了後の直接雇用に向けて、事前に特定行為をすることや、事前又は就業期間中に採用内定行為をすることを許容したものであるため、派遣労働者においても、直接雇用に向けた期待を抱くことは制度上当然であるといえる。しかしながら、紹介予定派遣は、派遣先での直接雇用に至らない場合があることを制度上当然の前提としていることから、直接雇用に向けた派遣労働者の期待が直ちに法的保護に値する合理的期待であるということはできず、職業紹介を経て直接雇用が確実に見込まれる段階に至ったとか、直接雇用をしない理由が不合理であるといった特段の事情が存しない限り、直接雇用に向けての期待は法的保護に値しないというべきである。
本件では、Y社において、Xらを直接雇用するための採用行為が具体的に進展していたとは認められないところであって、Xらが職業紹介を経て直接雇用が確実に見込まれる段階にまで至っていたということはできない。また、Y社がXらを直接雇用せず紹介予定派遣を終了した理由は、派遣期間6か月間で産業医と円滑な協力体制の構築に至らなかったためであるところ、Xらは、産業医との間で円滑な協力態勢の構築に至らなかったものと認められる。Y社における産業保健の在り方としては、産業医のサポート業務を保健師が行うという形がとられていたから、保健師であるXらと産業医であるY2との協力態勢の構築は重要であり、その構築に至らなかったという点は、紹介予定派遣終了の理由として合理的なものと評価することができる。
なお、Xらに対しては、Y2のXらに対するパワーハラスメントが認められるところであるが、Xらは、Y2のパワーハラスメントが始まるより前から、産業保健の在り方について、Y社とは異なる見解を持ち、このことのため、Y2及びY社に対する不満を募らせ、人事部に対し、Xらより先任の産業医を指導せよとの申入れまでするに至っており、Y2との協力態勢の構築がかなわなかった原因の一端はXらの側にも存するというべきである。このことは、その後のY2のXらに対する言動がパワーハラスメントと評されるとしても異ならない。このような状況下において、Y社では、XらかY2かを選択すべき状況に置かれていたことから、Y社が先に雇用していたY2との労働契約を優先し、Xらを直接雇用しなかったとしても直ちに不合理であるとはいえず、Xらの期待は法的保護に値するとまではいえない。
これに対し、Xらは、労働者の合理的期待を根拠に、契約締結拒否を制限し、契約締結を認めることは、雇止めに関する判例法理上も認められていると主張する。
しかしながら、雇止め法理は、既に有期労働契約が継続していたこと及び更新の可能性があることといった前提の下で認められてきたものであり、派遣先との間で未だ直接労働契約が締結されていない紹介予定派遣の場合とは適用場面が異なり、本件においてもXらの期待が雇止め法理と同様に保護に値するものとは認められない。

紹介予定派遣において直接雇用に至らなかった事案です。

結論に異論はないと思います。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。