おはようございます。
今日は、公益通報と認められる内部告発を行った労働者の解雇を無効とした事案を見ていきましょう。
水産業協同組合A事件(水戸地裁令和6年4月26日・労経速2556号3頁)
【事案の概要】
本件は、Y社に雇用されていたXらが、Y社に普通解雇されたことに関し、以下の請求をした事案である。
(1)X1が、Y社に対し、Y社によるX1の解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものであって、権利を濫用したものとして無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める(請求1(1))とともに、令和4年3月から判決確定日まで毎月25日限り賃金30万6000円+遅延損害金の支払(請求1(2))、並びに、労働契約に基づき、本件解雇1以前の令和3年の冬季賞与98万6000円及びこれに対する弁済期の翌日である令和3年12月14日から支払済みまで上記同旨の遅延損害金の支払を求めたもの。
(2)X2が、Y社に対し、Y社によるX2の解雇は、原告Bが業務上の疾病にかかり療養するために休業する期間内になされたものであるから労基法19条1項に反し、又は、権利を濫用したものとして無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、令和4年3月から判決確定日まで毎月25日限り賃金25万円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで上記同旨の遅延損害金の支払、並びに、労働契約に基づき、本件解雇2以前の令和3年の冬季賞与87万8400円及びこれに対する弁済期の翌日である令和3年12月14日から支払済みまで上記同旨の遅延損害金の支払を求めたもの。
【裁判所の判断】
1 X1が、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 Y社は、X1に対し、令和4年3月から本判決確定の日まで、毎月25日限り30万6000円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、X1に対し、13万7000円+遅延損害金を支払え。
4 X2が、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
5 Y社は、X2に対し、令和4年3月から同年10月まで、毎月25日限り25万円+遅延損害金を支払え。
6 Y社は、X2に対し、令和4年11月から令和5年12月まで、毎月25日限り15万円+遅延損害金を支払え。
7 Y社は、X2に対し、令和6年1月から本判決確定の日まで、毎月25日限り25万円+遅延損害金を支払え。
8 Xらのその余の請求をいずれも棄却する。
【判例のポイント】
1 本件記事の内容は、「茨城県加工シラス放射能“基準超え”数値はなぜ消えた」との題名のもと、本件書面に数値修正の書き込みがあり、修正後の数値を県が公表したこと、本件会議において放射性物質の検査結果が改ざんされた疑惑が生じたとの記載がある一方で、本件会議においてY社の幹部職員が説明した内容、Y社及び県に対する取材結果も同様に記載され、茨城県の数値は健康に影響が出るレベルではなかったと締めくくっているのであるから、これを読んだ一般読者においては、Y社が何らの根拠なく隠蔽目的で放射性物質分析結果数値を修正し、改ざんしたとの印象を抱くとまではいえず、Y社の信用低下は仮にあるとしても限定的なものにとどまる。
2 X1が、本件書面の記載内容から、Y社あるいは茨城県が、漁獲物の流通を確保するために、実際の放射性物質検査結果の数値よりも低い数値を公表したのではないかとの疑念を抱くことは必ずしも不合理なことではないというべきである。
したがって、X1が、週刊誌記者からの取材に対して、本件書面及び本件会議の録音音声を提供し、実際の放射性物質分析結果とは異なる数値が公表された可能性があるとの認識を回答していたとしても、それが、故意に虚偽の情報を提供したものであったということはできず、およそ合理的な理由なくY社の信用を毀損する行為であったということもできない。
以上に説示したところによれば、X1が取材に応じたことは、不合理にY社の信用を低下させるものであったとは認められず、解雇の有効性を基礎付ける客観的合理的な理由たり得ないというべきである。
多分に評価が含まれることから、現場において、解雇の是非を判断することは至難の業かと思います。
日頃から顧問弁護士に相談をする体制を整えておき、速やかに相談することにより敗訴リスクを軽減することが重要です。