おはようございます。
今日は、セクハラ行為による精神障害発症について加害者及び会社の責任を認めたものの、休業期間の長期化は原告側にも原因があるとして休業損害額を4割の限度で認めた事案について見ていきましょう。
A社事件(鳥取地裁令和6年2月16日・労経速2551号3頁)
【事案の概要】
本件は、Xが、勤務先であるY社及びかつて上司であったZに対し、次の各請求をする事案である。
(1) 不法行為及び使用者責任に基づく損害賠償請求
Y社らに対する、Zから継続的に人格権を侵害する違法なセクシュアルハラスメント及びパワーハラスメントを受け、これにより精神的苦痛を被るとともに、精神疾患を発病して休職を余儀なくされたなどと主張した、Zについては不法行為に基づく、Y社については使用者責任に基づく、損害賠償金2527万4746円(慰謝料1000万円、治療費9万1144円、休業損害438万9514円、逸失利益849万6384円及び弁護士費用229万7704円の合計額)+遅延損害金の連帯支払請求
(2) 債務不履行に基づく損害賠償請求
Y社に対する、Y社において、①セクハラ及びパワハラ被害防止策の周知徹底を怠ったため(事前の安全配慮義務違反及び職場環境調整義務違反)、Zによるセクハラ及びパワハラが発生するとともに、②同セクハラ及びパワハラの発覚後、速やかに必要かつ十分な措置をとることを怠ったため(事後の安全配慮義務違反及び職場環境調整義務違反)、精神的苦痛を被ったなどと主張した、債務不履行に基づく、損害賠償金660万円(慰謝料600万円及び弁護士費用60万円の合計額)+遅延損害金の支払請求
【裁判所の判断】
Y社らは、Xに対し、連帯して594万7156円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 Xが適応障害との診断を受けたのは平成30年10月22日で、その後にうつ病との診断を受けたのは令和元年11月16日である。そして、これを休業損害の算出基礎となる休業期間(平成30年11月1日から令和5年10月20日までの1815日間)との関係で考慮するならば、休業期間のおおむね8割程度の部分がうつ病の発病以降の期間となる。
Xの主治医の意見は、Xが「うつ病」を発病した主な要因には、Zがした不法行為ないしその後の言動のほかに、Y社の事後対応があり、さらには、Y社の事後対応により、Xが「健全な社会的関係性の感覚」を損なうなどして、うつ病が遷延しているというものである。このような主治医の意見に、ZのF支店への出張、F支店長への降格によってXとZの接触がないものとなったことを併せ考慮すれば、Xがうつ病を発病した後、上記に認定した休業期間の終期にまでうつ病が遷延しているのは、Y社の事後対応についてのX自身の受止めが強く作用しているとみるのが合理的である。これを換言すれば、上記の休業損害期間について、それが終期に近づけば近づくほど、その時点での休業の原因がX側の事情にあるとの側面が強まっているとの評価が可能である。
このように、そもそもXがZの不法行為によって適応障害ないしうつ病を発病したものであるとはいえ、うつ病が遷延して長期に及び休業期間が発生したことについて、上述したとおりのX側の事情というべきものがあって、その休業期間のおおむね8割に相当する部分については、休業期間の終期に向かって順次、そのX側の事情が原因となっている側面が強まっていること、治療費とは異なって休業損害は高額にわたるものであること等を踏まえると、損害の公平な分担の観点に照らし、Zの不法行為による休業損害額は、もはや一旦算出した金額の半額をやや下回るものになると認めるのが相当である。
このような考慮に基づく休業損害について具体的金額をもって示すと、基礎収入(日額8548円)に休業期間(1815日間)を乗じて一旦算出した休業損害額1551万4620円の4割に相当する620万5848円の限度にとどまるものとするのが相当である。
パワハラ等による精神疾患発症事案において、使用者側が着目すべき点が記載されています。
社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。