おはようございます。
今日は、マタハラにより精神疾患が悪化し、退職を余儀なくされた医師の損害賠償請求が棄却された事案を見ていきましょう。
日南市事件(福岡高裁宮崎支部令和6年2月14日・労経速2547号32頁)
【事案の概要】
本件は、Y社が運営するa病院に勤務していた医師であるXが、産休から勤務に復帰する前に行われたa病院の事務局長であるBとの面談において、同事務局長から安全配慮義務ないし信義則上の義務に違反する通知(Xに対し、復帰後の勤務日を週5日から週1日に減らす旨を内容とするもの)を受けたことにより、持病の精神疾患が悪化し、勤務に復帰することが困難となってa病院を退職することを余儀なくされたなどと主張して、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として918万8370円+遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は、Xの請求を棄却したところ、Xがこれを不服として本件控訴を提起した。
【裁判所の判断】
控訴棄却
【判例のポイント】
1 Xは、B事務局長による本件通知は、Xに対し、希望・意向を一切聞くことなく、週1日勤務に変更するものであるから、出産を理由とする明らかな不利益な取扱いに当たる上、本件通知は、事実上修正の余地のない一方的なもので、Xは産休後の勤務条件について要望を述べ、必死に食い下がっていたが、受け入れられなかったものであり、仮に、本件通知が、Xの体調に配慮した提案であったとしても、本件通知の結果、Xの持病の著しい増悪を招いたことからすると、本件通知は違法であり、安全配慮義務違反の評価を免れず、Y社は、子を養育する女性医師に対する無意識の思い込みや障害に対するバイアスを背景に、Xの意向とすり合わせをする努力を全く欠いた極端な労働条件の不利益変更、妊娠等を理由とする違法な不利益取扱いをしたもので、女性職員が妊娠、出産後の健康の確保を図る措置を受けつつ、充実した職業生活を営むことができるように配慮する義務、妊娠等を理由とする差別や不利益取扱いを行わない義務、ハラスメント対処義務に違反するものであって、Xの働きやすい職場環境の中で働く人格的利益を侵害し、Xに甚大な精神的苦痛を与えたもので、地方公務員法13条及び男女雇用機会均等法1条、2条、11条の3に基づき、a病院が任命権者として負っている各種義務に違反したから、違法であると主張する。
しかしながら、①本件面談におけるB事務局長の提案内容は、産休前のXの勤務条件とは異なるものの、確定的なものでなく、初回の提案内容として不適切なものとはいえず、②本件面談日の設定や、③B事務局長の提案方法が適切なものでなかったとも、④精神障害を抱えるXに対する配慮に欠ける時期にされたものともいい難く、また、本件面談当時、B事務局長において、上記提案をすることで、Xの心身の状況を悪化させることを予期すべき状況にあったともいえないから、B事務局長が、本件面談において、Xに精神的、財産的損害を与えないようにする安全配慮義務及び交渉当事者に求められる信義則上の義務に違反したということはできないことは前記補正して引用する原判決第3の2(1)のとおりであり、これをもって、a病院がXを妊娠、出産、育児を理由として不利益に取り扱ったと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
結果としては、違法ではないという判断になっていますが、産休から復帰するタイミングということもあり、労働者からマタハラと主張されることは覚悟をしなければいけません。
腫れ物に触るような対応になってしまうケースも散見されるように、現場での判断は本当に難しいことが多いです。
社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。