管理監督者60 取締役統括部長であった原告の管理監督者性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、取締役統括部長であった原告の管理監督者性が否定された事案を見ていきましょう。

アスク事件(東京地裁令和5年4月12日・労経速2547号32頁)

【事案の概要】

1 本訴は、Y1社において営業職として勤務していたXが、Yらに対し、次の各請求をする事案である。
ア Y1社に対し、時間外労働等に対する未払賃金として594万5288円+遅延損害金の支払
イ Y1社に対し、付加金として497万0113円+遅延損害金の支払
ウ Y1社に対し、退職金として、424万6504円+遅延損害金の支払
エ Xは、Y1社から退職金の現物給付として本件自動車を支給することが決まっていたのに、これが履行されていないと主張し、①Y2社に対し、Y2社との間の退職金の支給に係る債務引受合意に基づき、本件自動車の所有権移転登録手続の請求(主位的請求)、②Y1社に対し、本件自動車を支給しなかったとの債務不履行に基づき、損害賠償として230万円(本件自動車の時価)+遅延損害金の支払(予備的請求)
2 反訴は、①Y1社が、XにはY1社に在任中に労働契約上の義務違反(債務不履行)及び不法行為を構成する行為があったとして、Xに対し、これらの行為による損害賠償(債務不履行による損害6万2670円、不法行為による損害232万3269円)+遅延損害金を請求するとともに、②Y2社が所有権に基づき、Xに対し、Xが占有する本件自動車の引渡しを請求する事案である。

【裁判所の判断】

 Y1は、Xに対し、448万8522円+遅延損害金を支払え。
 Y1は、Xに対し、100万円+遅延損害金を支払え。
 Y2は、Xに対し、別紙2車両目録記載の自動車について所有権移転登録手続をせよ。
 Xは、Y1に対し、6万2670円+遅延損害金を支払え。
 Xのその余の本訴請求を棄却する。
 Y1のその余の反訴請求及びY2の反訴請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 ①Xは、従業員の人事考課を行っていたものの、最終的な決定は代表取締役が行っており、Xの意見が覆されることもあった。
②Xは、人材の採用に関して、応募してきた者の面接を行い、社長に意見を述べていたものの、Y社代表者が最終的な決定を行い、Xが採用すべきとの意見を述べた場合(6件)のうち、2件についてはY社代表者がこれと異なる意見を述べて、不採用となった。
③Xは、部下の異動について代表取締役に意見を述べていた。
④Xは部下の日報を確認していた。
以上の認定事実を踏まえて検討すると、たしかに、Y1社の機材の購入計画及び廃棄計画並びに売上管理表の原案を作成していた点では経営に関与しているとともに、人事考課、人材の採用等の場面において、代表取締役に意見を述べて、人事・労務管理に一定の役割を果たしたこと自体は否定できない
しかしながら、①Xは取締役ではあったものの、取締役会を通じて経営に参画していたとはいえないこと、②合同会議で議題されていた内容は経営方針そのものというよりは、それぞれの部門の実務的な課題と評価されるものであること、③統括部営業会議は、部門長が出席する会議であり、会議の内容を考慮しても、経営に関する意思決定が行われていたとはいえないこと、④Xには建設機械を購入する権限がなかったことからすると、Xが経営上の決定に参画していたとはいえない。
また、人事・労務管理上の権限に関しても、Xは意見を述べるにとどまり、最終的な決定権限は代表取締役にあり、代表取締役の権限が形骸化していたとも評価できない。Y社代表者は、Y社代表者が面接をしないで採用が決まったこともある旨供述するが、その数は少ないとも供述しており、採用の決定権限がY社代表者にあったとの認定を左右しない。また、日報については、Y社代表者は、日報は労務管理のためのものである旨供述する一方で、Xは部下に営業の指導、アドバイスをするために部下の日報を見ていた旨供述しており、C専務もXは日報とタイムカードの双方を確認していない旨供述していることからすると、日報が労務管理を目的として作成されていたとまでは認められない。そうすると、Xが部下の日報を見ていたとしても、人事・労務管理上の権限を有していたこととはいえない。
以上によれば、Xは機材の購入計画及び廃棄計画並びに売上管理表の原案を作成していた等の点で一定程度経営に関与していたことは否定できないものの、それ以外に経営に関与していたと評価できる事情はなく、特に人事・労務管理上の権限に関しては、最終的にはY社代表者に権限があったと認められるのであって、Xは、経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されていたとまではいえない。

ご覧のとおり、もはや管理監督者性についてはあきらめたほうが無難かと思います。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。