メンタルヘルス13 主治医により復職可能との診断はされたが、産業医との面談結果等から復職が認められなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、主治医により復職可能との診断はされたが、産業医との面談結果等から復職が認められなかった事案を見ていきましょう。

ホープネット事件(東京地裁令和5年4月10日・労経速2549号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結して主に営業職として就労していたXが、双極性感情障害を発症して平成30年9月1日からY社を休職していたところ、Y社から、就業規則で定められた休職期間の満了を理由に令和2年3月31日をもって自然退職したものと取り扱われたことにつき、上記の双極性感情障害は、職場でパワーハラスメントを受けたことによるストレスに起因して発症した業務上の疾患である上、令和2年3月31日時点において、休職前に従事していた通常の業務を遂行できる程度にまで回復し、あるいは、復職後ほどなく回復する見込みがあったほか、休職前の業務以外の他業務であれば復職することは可能であったから、休職期間の満了を理由に原告を退職扱いとしたY社の措置は無効であり、また、Y社による上記の措置及び職場におけるパワーハラスメントはXに対する不法行為を構成し、これにより精神的苦痛を被ったと主張し、Y社に対し、(1)雇用契約に基づき、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②令和2年5月から本判決確定の日までの毎月25日を支払日とする賃金月額52万6000円+遅延損害金の支払、③令和2年5月から本判決確定の日までの毎年3月28日を支払日とする賞与24万3000円、毎年6月8日を支払日とする賞与41万3100円、毎年12月10日を支払日とする賞与37万3000円+遅延損害金の支払、(2)不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料300万円及び弁護士費用150万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、令和2年2月21日の診察時に、C医師から症状の改善を認めるため同年3月1日より復職可能と判断できる旨の診断がされている旨を主張する。
この点、C医師により上記の旨が記載された本件診断書が作成されているものの、Xについては、同年3月時点においても、本件傷病に対する治療内容や処方内容等に特段の変化は見受けられず、多剤投与が続いていたことからすれば、通院当初から継続して行われている治療が継続されている状態にあったものと解されるのであって、Xが休職期間の満了後である令和2年5月22日に河内クリニックを受診した際にG医師からあらためて「躁うつ病」と診断されたことも上記の判断を裏付けるものである。
また、C医師は、同年3月から復職が可能であると判断した理由について、本人が働けるかどうかを一番分かっているので、復職を希望するXの言葉を聞いて同日から復職可能であると判断し、ただ、いきなりフルタイムということはあまりないので労務軽減を要する旨の診断をしたことが認められ、特にXの従前の就労状況や担当業務を踏まえて復職可能という判断をしたものではないことがうかがわれる
かかる諸事情に加え、Xにおいて、当初復職を目指していた令和2年3月1日の直前である同年2月の時点でも、復職に向けた取組は何ら行われていなかったことや双極性障害の治療において重要とされている生活リズムのコントロールが十分に図られていなかったことなどの事情も併せると、C医師の本件診断書に係る意見が、Xが未だ治療途上にあり復職できるほどに回復した状況にあったとはいい難い旨のD医師の意見を超える有意性を有するとまでは認め難いものといわざるを得ない。したがって、Xの上記主張は採用することができない。

2 Xが「最初の1か月間は午前中のみの勤務とし、労務軽減した形での復職が望ましい。」と記載された本件診断書を被告に提出したことをもって、配置される現実的可能性がある他の業務について労務の提供を申し出ていたものと解する余地もあるため、さらに検討するに、Y社は、令和2年4月期において672人の従業員を擁していたが、実質的には、そのほとんどはY社の取引先である派遣先への派遣が予定されている者、あるいは現に派遣先に派遣されている者であって、Y社の本来業務に従事している従業員(派遣先へ派遣されている者及び派遣予定の者を除いた従業員)は54人程度であったこと、Y社の事業内容は人材派遣業及びそれに関連する事業が主体であることが認められるから、Y社が多様な職種や業務部門を有していたとまでは認め難い。
また、平成30年10月に株式会社bの完全連結子会社となり、令和2年3月当時も○○グループの一翼を担っていたが、Y社と株式会社bとの間、あるいはY社と○○グループの他の企業との間で人事交流や異動等がされるということはなかったことがうかがわれる。
加えて、令和2年3月時点でXの本件傷病は未だ治療中であり、当該時点において本件傷病が復職後ほどなく軽快することが見込まれていたとは認め難いところ、本件全証拠を子細にみても、令和2年4月時点で存在したY社の業務部門の中で、Xが休職原因となった本件傷病(双極性障害)を有する状態のまま就労可能な業務密度や業務量の少ない業務や部署が現に存在したことを認めるに足りる的確な証拠はない。

主治医と産業医で復職の可否に関する意見が割れることは決して珍しいことではありません。

このような場合、会社としてはどのように判断すればよいのか悩むところだと思います。

本件では、産業医の意見が採用されましたが、事案によっては主治医の意見が採用されることもあります。事案によるわけです。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。