おはようございます。
今日は、時給制契約社員への寒冷地手当の不支給が不合理とされなかった事案を見ていきましょう。
日本郵便事件(札幌地裁令和5年11月22日・労経速2545号35頁)
【事案の概要】
本件は、Y社と期間の定めのある労働契約を締結して勤務した時給制契約社員であるXらが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者とXらとの間で、寒冷地手当の支給の有無に相違があったことは労働契約法20条に違反するものであったと主張して、不法行為に基づき、Xらにつき、別紙1請求債権目録記載の「勤務年月・賞与」欄に対応する「合計」欄記載の各金員+遅延損害金等の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 Y社において正社員に対して支給されている寒冷地手当は、北海道その他の寒冷積雪地においては気温、積雪、風速等の特殊な気象条件によって冬期において燃料費、除雪費、被服費、食糧費、家屋修繕費等に多額の出費を要することから、これらの費用の一部を補給するために設けられた手当であり、その主たる目的は、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、これらの一時的に増蒿する生活費を填補することを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと認められる。
上記目的に照らせば、寒冷地域において勤務する時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、寒冷地手当を支給することとした趣旨は基本的に妥当するということができる。
そして、Y社における時給制契約社員は、契約期間が6か月以内とされており、Xらのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれていることからすると、正社員と同額を支給するかどうかはともかく、正社員と同様、時給制契約社員に対しても寒冷地手当を支給するとすることは合理的な理由があるといい得る。
2 しかし、他方で、正社員の基本給は、全国一律に定められていることから、寒冷地手当には、寒冷地域に勤務することにより冬期に発生する燃料費等の多額の出費を余儀なくされる正社員の生活費を填補することにより、それ以外の地域に勤務する正社員との均衡を図り、これにより円滑な人事異動を実現するという趣旨を含んでいることは否定できない。
これに対して、時給制契約社員の基本給は、地域ごとの最低賃金に相当する額に20円を加えた額を下限額として決定されており、この地域別最低賃金額は、地域における労働者の生計費を考慮要素とし(最低賃金法9条2項)、具体的には、各都道府県の人事委員会が定める標準生計費等を考慮して定められ、その標準生計費を定める際には光熱費以外に灯油等への支出金額も検討材料とされている。したがって、具体的な金額は必ずしも明らかではないものの、寒冷地に勤務する時給制契約社員の基本給は、既に寒冷地であることに起因して増加する生計費が一定程度考慮されているといえる。
このように正社員と時給制契約社員との基本給は異なる体系となっている上、時給制契約社員の基本給は元々各地域の生計費の違いが考慮されており、寒冷地域に勤務することにより増蒿する生活費が全く考慮されていないものではない。
3 加えて、Y社における寒冷地手当は、国家公務員の寒冷地手当に関する法律に由来するところ(弁論の全趣旨)、同法においても寒冷地手当の支給は、常時勤務に服する職員に限り支給するとされるにとどまり(同法1条)、時給制契約社員に対して寒冷地手当を支給する旨の規定はないことも考慮すると、前記認定事実の正社員と時給制契約社員との職務の内容及び職務の内容等の相違を踏まえ、時給制契約社員に対して寒冷地手当を支給するか否か、また、その額をいくらにするかという事項は、Y社の経営判断に委ねられているものといわざるを得ない。
そうすると、正社員に寒冷地手当を支給する一方で、時給制契約社員に対してこれを支給しないという労働条件に相違があることは不合理であるとまではいうことができず、労働契約法20に違反するとは認められない。
上記判例のポイント1だけを読むと請求認容の可能性がありますが、ポイント2の事情を考慮することで請求棄却となっています。
日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。