解雇409 コロナ禍での整理解雇につき、解雇回避努力が不十分とはいえないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、コロナ禍での整理解雇につき、解雇回避努力が不十分とはいえないとされた事案を見ていきましょう。

カーニバル・ジャパン事件(東京地裁令和5年5月29日・労経速2545号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、①Y社がXに対してした解雇は無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに解雇後である令和2年7月分以降の賃金として同月から毎月末日限り38万5783円+遅延損害金の支払を求め、②Y社の代表取締役であるBに対し、違法な解雇をしたことを理由とする不法行為又は会社法429条1項に基づく損害賠償金110万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

本判決確定日の翌日以降を支払日とする賃金+遅延損害金の支払を求める部分は却下

その余は請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、本件解雇を行うに当たり、経費削減のために、月額約2300万円であった販売費を月額200万円~400万円に大幅に削減したほか、月額300万円の出張旅費・交際費を全額削減し、大阪営業所を閉鎖した。年間約6000万円の負担を生じる事務所の賃料についてはY社は、一部区画を解除しようと貸主と交渉したが、貸主が解約を拒んだため解約はできなかった。
人件費の削減についても、4名いた派遣社員の契約を全て契約期間満了により終了させているほか、解雇に先立ち、人員削減の対象者23名に対し、特別退職金(Xについては月給の約4.7箇月分)の支払及び年次有給休暇の買取りの提案を伴う退職勧奨を実施しており、退職勧奨の対象とならなかった従業員及び役員については、その給与(報酬)を令和2年7月から同年11月まで20%削減した。
以上のとおり、Y社は、解雇回避のため、一定の経費削減を行ったものと評価できる。

2 Y社は、希望退職者募集を実施しなかったが、Y社の正社員の従業員は約67名であり、これが5部門に分かれ、その部門内でもそれぞれ役割が細分化されていたところ、希望退職者を募集すると、上記各部門で枢要な役割を果たしている従業員が、希望退職者募集に応じて退職するおそれがあり、そうなると業務に支障が生じ、組織が存続できなくなる可能性が高かったと認められる。
仮に、応募した者のうちY社が承認した者のみに早期退職を認めるという方法をとったとしても、いったん希望退職者募集に応じた者の帰属意識及び勤労意欲の低下は避けられず、組織の存続が困難になることに変わりはない
そして、整理解雇は、事業組織の存続のために行われるものであるから、事業組織の存続という目標が達成できる範囲で、客観的に実行可能な解雇回避措置をとれば足りるもので、上記事情の下で、Y社において希望退職者募集をしなかったことをもって、解雇回避努力が不十分であったということはできない

3 上記内容の雇用調整助成金では、一日当たり8330円までしか支給されないことから、賃金の全額を支払った場合には、人件費を50%削減したこととならないし、賃金を減じた場合には、休業を命じているといっても、賃金を減じられたことに不満を感じる従業員がY社を退職することは予想されるから、Y社の組織の存続が困難となる。また、受給期間が令和2年7月1日から100日分に限られており、最も楽観的な運航再開見込み時期であった令和3年4月までであっても、雇用を維持することはできない見通しであった。
したがって、令和2年6月4日の時点において、Y社が雇用調整助成金を受給することによって、人件費を50%削減しつつ事業再開時に通常営業ができるような組織を維持することは困難であり、Y社が、同日の時点で、雇用調整助成金を受給することなく、従業員23名に対し退職勧奨をしたことはやむを得ないというべきである。

4 Y社は、人員削減の対象者に対し、個別に面談して、特別退職金の支払及び年次有給休暇の買取り等を提示した上で、退職勧奨を行い、回答期限こそ面談の4日後であったが、従業員の要望を踏まえ、同年6月15日付けとされていた退職日を同月30日付けに変更する旨の提案を行った。また、本件解雇前に実施された団体交渉においては、説明資料を交付してY社の財務状況を説明し、本件3名の質問を受けて、Xを人員削減の対象者として選定した理由、雇用調整助成金の利用しなかった理由及び希望退職者の募集を行わない理由について、それぞれ回答しており、Y社の応対には虚偽はなく、妥当なものと認められる。

上記判例のポイント2、3によれば、一部、手続について不十分と評価され得る事情もありますが、裁判所は上記理由を示して救済してくれています。

全体的な事情からして、整理解雇はやむを得ない状況であったと考えたのでしょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。