Monthly Archives: 8月 2024

本の紹介2120 掟破り#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から11年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

サブタイトルは「逆境を力に変え挑み続けるための111の言葉」です。

ここ最近、社会から失われている無骨さみたいなものを感じます。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

私は、整理整頓は仕事の基本だと思っています。デスクの上にさまざまな資料が山のように積まれている人は、仕事が遅いように感じます。逆に、机の上にほとんどモノがなく、すっきりしている人は仕事もはやい。このような人は、物理的な整理整頓はもちろん、思考の整理や情報の整理にも長けています。」(207頁)

机の上や周りが資料等で埋め尽くされている人には耳の痛い話かもしれませんが、私は正しいと思っています。

これは偏見かもしれませんが、そもそも机のまわりの整理整頓すらできない人が、仕事におけるマルチタスクを整理できるとは思えないのです。

また、物理的な問題として、机の上にさまざまなモノを置いている人は、デスクワークをするスペースが限られているため、必然的に作業効率が落ちる傾向にあります。

机の上は、心を映す鏡です。

仕事が遅い、効率が悪いと感じる方は、是非、机の上や周りを整理することをおすすめいたします。

同一労働同一賃金275 時給制契約社員への寒冷地手当の不支給が不合理とされなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、時給制契約社員への寒冷地手当の不支給が不合理とされなかった事案を見ていきましょう。

日本郵便事件(札幌地裁令和5年11月22日・労経速2545号35頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのある労働契約を締結して勤務した時給制契約社員であるXらが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者とXらとの間で、寒冷地手当の支給の有無に相違があったことは労働契約法20条に違反するものであったと主張して、不法行為に基づき、Xらにつき、別紙1請求債権目録記載の「勤務年月・賞与」欄に対応する「合計」欄記載の各金員+遅延損害金等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社において正社員に対して支給されている寒冷地手当は、北海道その他の寒冷積雪地においては気温、積雪、風速等の特殊な気象条件によって冬期において燃料費、除雪費、被服費、食糧費、家屋修繕費等に多額の出費を要することから、これらの費用の一部を補給するために設けられた手当であり、その主たる目的は、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、これらの一時的に増蒿する生活費を填補することを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと認められる。
上記目的に照らせば、寒冷地域において勤務する時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、寒冷地手当を支給することとした趣旨は基本的に妥当するということができる。
そして、Y社における時給制契約社員は、契約期間が6か月以内とされており、Xらのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれていることからすると、正社員と同額を支給するかどうかはともかく、正社員と同様、時給制契約社員に対しても寒冷地手当を支給するとすることは合理的な理由があるといい得る

2 しかし、他方で、正社員の基本給は、全国一律に定められていることから、寒冷地手当には、寒冷地域に勤務することにより冬期に発生する燃料費等の多額の出費を余儀なくされる正社員の生活費を填補することにより、それ以外の地域に勤務する正社員との均衡を図り、これにより円滑な人事異動を実現するという趣旨を含んでいることは否定できない。
これに対して、時給制契約社員の基本給は、地域ごとの最低賃金に相当する額に20円を加えた額を下限額として決定されており、この地域別最低賃金額は、地域における労働者の生計費を考慮要素とし(最低賃金法9条2項)、具体的には、各都道府県の人事委員会が定める標準生計費等を考慮して定められ、その標準生計費を定める際には光熱費以外に灯油等への支出金額も検討材料とされている。したがって、具体的な金額は必ずしも明らかではないものの、寒冷地に勤務する時給制契約社員の基本給は、既に寒冷地であることに起因して増加する生計費が一定程度考慮されているといえる。
このように正社員と時給制契約社員との基本給は異なる体系となっている上、時給制契約社員の基本給は元々各地域の生計費の違いが考慮されており、寒冷地域に勤務することにより増蒿する生活費が全く考慮されていないものではない

3 加えて、Y社における寒冷地手当は、国家公務員の寒冷地手当に関する法律に由来するところ(弁論の全趣旨)、同法においても寒冷地手当の支給は、常時勤務に服する職員に限り支給するとされるにとどまり(同法1条)、時給制契約社員に対して寒冷地手当を支給する旨の規定はないことも考慮すると、前記認定事実の正社員と時給制契約社員との職務の内容及び職務の内容等の相違を踏まえ、時給制契約社員に対して寒冷地手当を支給するか否か、また、その額をいくらにするかという事項は、Y社の経営判断に委ねられているものといわざるを得ない
そうすると、正社員に寒冷地手当を支給する一方で、時給制契約社員に対してこれを支給しないという労働条件に相違があることは不合理であるとまではいうことができず、労働契約法20に違反するとは認められない。

上記判例のポイント1だけを読むと請求認容の可能性がありますが、ポイント2の事情を考慮することで請求棄却となっています。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

本の紹介2119 負けない作法#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

今から7年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

著者は、帝京大学ラグビー部監督の方です。

史上初大学選手権8連覇を成し遂げた監督がどのようなことを大切にしているのかがよくわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

勝ち負けで大切なこととは、勝ち負けという評価に左右されないということ。そして、いかに相手や環境に左右されず、自分の力を出すことに集中できるかが大切です。」(98頁)

これはスポーツ競技に限りません。

調子がいいときもそうでないときも、日々、やるべきことをやる。

気分屋さんは、成果が安定しないのです。

この世の中は、どこもかしこも他人に対する批判と不満と愚痴で溢れかえっています。

上司、同僚、会社、親、パートナー、社会、国・・・

そんなことに時間を使っている暇があるなら、自分の力を向上させる努力をすべきでしょう。

そうすることが、このネガティブでストレスフルな環境から抜け出す最も確実な方法です。

解雇409 コロナ禍での整理解雇につき、解雇回避努力が不十分とはいえないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、コロナ禍での整理解雇につき、解雇回避努力が不十分とはいえないとされた事案を見ていきましょう。

カーニバル・ジャパン事件(東京地裁令和5年5月29日・労経速2545号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、①Y社がXに対してした解雇は無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに解雇後である令和2年7月分以降の賃金として同月から毎月末日限り38万5783円+遅延損害金の支払を求め、②Y社の代表取締役であるBに対し、違法な解雇をしたことを理由とする不法行為又は会社法429条1項に基づく損害賠償金110万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

本判決確定日の翌日以降を支払日とする賃金+遅延損害金の支払を求める部分は却下

その余は請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、本件解雇を行うに当たり、経費削減のために、月額約2300万円であった販売費を月額200万円~400万円に大幅に削減したほか、月額300万円の出張旅費・交際費を全額削減し、大阪営業所を閉鎖した。年間約6000万円の負担を生じる事務所の賃料についてはY社は、一部区画を解除しようと貸主と交渉したが、貸主が解約を拒んだため解約はできなかった。
人件費の削減についても、4名いた派遣社員の契約を全て契約期間満了により終了させているほか、解雇に先立ち、人員削減の対象者23名に対し、特別退職金(Xについては月給の約4.7箇月分)の支払及び年次有給休暇の買取りの提案を伴う退職勧奨を実施しており、退職勧奨の対象とならなかった従業員及び役員については、その給与(報酬)を令和2年7月から同年11月まで20%削減した。
以上のとおり、Y社は、解雇回避のため、一定の経費削減を行ったものと評価できる。

2 Y社は、希望退職者募集を実施しなかったが、Y社の正社員の従業員は約67名であり、これが5部門に分かれ、その部門内でもそれぞれ役割が細分化されていたところ、希望退職者を募集すると、上記各部門で枢要な役割を果たしている従業員が、希望退職者募集に応じて退職するおそれがあり、そうなると業務に支障が生じ、組織が存続できなくなる可能性が高かったと認められる。
仮に、応募した者のうちY社が承認した者のみに早期退職を認めるという方法をとったとしても、いったん希望退職者募集に応じた者の帰属意識及び勤労意欲の低下は避けられず、組織の存続が困難になることに変わりはない
そして、整理解雇は、事業組織の存続のために行われるものであるから、事業組織の存続という目標が達成できる範囲で、客観的に実行可能な解雇回避措置をとれば足りるもので、上記事情の下で、Y社において希望退職者募集をしなかったことをもって、解雇回避努力が不十分であったということはできない

3 上記内容の雇用調整助成金では、一日当たり8330円までしか支給されないことから、賃金の全額を支払った場合には、人件費を50%削減したこととならないし、賃金を減じた場合には、休業を命じているといっても、賃金を減じられたことに不満を感じる従業員がY社を退職することは予想されるから、Y社の組織の存続が困難となる。また、受給期間が令和2年7月1日から100日分に限られており、最も楽観的な運航再開見込み時期であった令和3年4月までであっても、雇用を維持することはできない見通しであった。
したがって、令和2年6月4日の時点において、Y社が雇用調整助成金を受給することによって、人件費を50%削減しつつ事業再開時に通常営業ができるような組織を維持することは困難であり、Y社が、同日の時点で、雇用調整助成金を受給することなく、従業員23名に対し退職勧奨をしたことはやむを得ないというべきである。

4 Y社は、人員削減の対象者に対し、個別に面談して、特別退職金の支払及び年次有給休暇の買取り等を提示した上で、退職勧奨を行い、回答期限こそ面談の4日後であったが、従業員の要望を踏まえ、同年6月15日付けとされていた退職日を同月30日付けに変更する旨の提案を行った。また、本件解雇前に実施された団体交渉においては、説明資料を交付してY社の財務状況を説明し、本件3名の質問を受けて、Xを人員削減の対象者として選定した理由、雇用調整助成金の利用しなかった理由及び希望退職者の募集を行わない理由について、それぞれ回答しており、Y社の応対には虚偽はなく、妥当なものと認められる。

上記判例のポイント2、3によれば、一部、手続について不十分と評価され得る事情もありますが、裁判所は上記理由を示して救済してくれています。

全体的な事情からして、整理解雇はやむを得ない状況であったと考えたのでしょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2118 マッキンゼー式世界最強の仕事術#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から11年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

20年以上前に出版された本ですが、今読んでも何の遜色もありません。

それほど普遍的な仕事術なのでしょう。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

シングルヒットを打つ(期待に応える) すべてができるわけではないのだから、しようとしないこと。すべきことだけを、きちんとする。ホームランを狙って、十打席のうち九打席で三振に終わるより、コンスタントに一塁に出るほうがずっといい。

毎日、シングルヒットを打ち続けることがいかに大切で、かつ、大変なことか。

もう本当にその積み重ねでしかありません。

一発逆転を狙って大きく賭けるのではなく、コツコツ地道に努力を続けることこそが、私たち凡人にできる唯一の勝ちパターンです。

もうこのご時世、遊んでいる場合でないことはご覧のとおりです。

セクハラ・パワハラ86 上司の言動がパワハラによる不法行為と認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、上司の言動がパワハラによる不法行為と認められた事案を見ていきましょう。

倉敷紡績事件(大阪地裁令和5年12月22日・労経速2544号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたXが、Y社の執行役員でありXの上司であったAから罵声を浴びせられるなどのパワーハラスメントを受けたことによりY社を退職せざるを得なくなり、精神的苦痛を受けたなどとして、Y社らに対し、不法行為(被告Aに対しては民法709条、Y社に対しては同法715条1項)に基づく損害賠償として、660万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社らは、Xに対し、連帯して、55万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Aは、令和3年2月1日に情報機器システム部の部長に就任した後、同年9月30日にXがY社を退職するまでの間、Xに対し、Y社における業務の進め方等に関し、「アホ」「ボケ」「辞めさせたるぞ」「今期赤字ならどうなるかわかっているやろな」といった言動を日常的に繰り返し行っていた
Aは、令和3年4月又は5月、顧客とのWEB会議の終了後に、Xが座っていた椅子の脚を蹴ったことが1回あった。
Aは、令和3年7月頃、Xが新入社員を指導していた際、WEB会議システムを介して、新入社員の目の前で、Xほか1名を指して「こいつらは無能な管理職だ。こんな奴らに教育されて可哀そうだ。これくらいのことができないのは本当に無能だ。」と発言した。
Aは、前記の期間において、Xに対し、Y社において利用が認められているフレックスタイム制度や在宅勤務の抑制を示唆する言動をし、また、Y社の規定で認められている宿泊費の定額精算を認めず、実費で精算すべきであると述べた。

2 前記AのXに対する言動は、Y社のハラスメント防止規則の定めるパワハラに当たり、Xに対する注意や指導のための言動として社会通念上許容される限度を超え、相当性を欠くものであるから、Xに対する不法行為に当たるというべきである。

慰謝料の金額よりもレピュテーションダメージを考えるべき事案です。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

本の紹介2117 真経営学読本#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から7年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

何度読んでもとても良い本です。

ドッグイヤーの量が物語っています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

私は、大変な衝撃を受けました。私自身の生き方が、すでに人を育てていると言われたからです。夢を持って、諦めないで挑戦し続けていく姿を人に見せることが、人を育てることになる、と気づいた瞬間でした。私みたいな未熟者でも、人を育てられることがわかりました。」(285頁)

親は子に「勉強しなさい」と言うのではなく、子の前で勉強する姿を見せればそれで足ります。

自分は全く勉強しないのに、子にだけ勉強せよとは都合のいい話です。

私は幸いにも、両親から継続することの大切さ、勤勉であることの大切さを、その後ろ姿をもって教えてもらったことが今日まで活きています。

親が子に、先輩が後輩に、上司が部下に、口ではなくその姿を見せることが一番の教育になるのではないでしょうか。

労働時間105 専門業務型裁量労働制における労使協定締結が無効として残業代等の支払いが命じられた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専門業務型裁量労働制における労使協定締結が無効として残業代等の支払いが命じられた事案

学校法人松山大学事件(松山地裁令和5年12月20日・労経速2544号3頁)

【事案の概要】

本訴事件は、①Y大学法学部法学科に所属する教授職にあるXらが、専門業務型裁量労働制を導入した就業規則の変更が無効であり、時間外労働、休日及び深夜労働に係る賃金が支払われていないと主張して、未払賃金支払請求権に基づき、Y大学に対し、X甲野に509万1326円+遅延損害金、X乙山に407万6623円+遅延損害金の支払を求め(以下、これらの請求を「本訴請求①」という。)、②X甲野が、〈ア〉Y丁田によるハラスメント申立て並びにY大学による同申立についての審議及びハラスメント認定がいずれも不当労働行為に該当する、〈イ〉Y大学及びY丁田が、労働者の過半数代表者の選出に当たって不当に介入したことが違法であると主張して、Yらに対し、共同不法行為に基づく損害賠償として、連帯して100万円+遅延損害金の支払を求め(以下、これらの請求を「本訴請求②」という。)、③Xらが、Y大学の、〈ア〉労働者の労働時間を把握管理しなければならない義務及び出退勤時刻を把握する手段を整備しなければならない義務違反、〈イ〉休日及び深夜の研究室の利用の原則禁止処分、〈ウ〉休日・深夜勤務申請書及び休日・深夜勤務報告書の受付拒否、〈エ〉注意文書等の発出行為がいずれも不当労働行為に該当するとして、Y大学に対し、不法行為に基づく損害賠償として、X甲野に75万円+遅延損害金、X乙山に100万円+遅延損害金の支払を求め(以下、これらの請求を「本訴請求③」という。)、④Xらが、Y大学に対し、上記①に係る付加金として、X甲野に421万2988円+遅延損害金、X乙山に270万9640円+遅延損害金の支払を求めた(以下、これらの請求を「本訴請求④」という。)事案である。

【裁判所の判断】

1 Y大学は、X甲野に対し、351万9733円+遅延損害金を支払え。
2 X大学は、X甲野に対し、140万円+遅延損害金を支払え。
3 X大学は、X乙山に対し、284万9534円+遅延損害金を支払え。
4 Y大学は、X乙山に対し、90万円+遅延損害金を支払え。
5 Y大学は、X丙川に対し、720万1813円+遅延損害金を支払え。
6 Y大学は、X丙川に対し、250万円+遅延損害金を支払え。
7 Y丁田は、X甲野に対し、10万円+遅延損害金を支払え。
8 X甲野は、Y丁田に対し、11万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 専門業務型裁量労働制を採用するに当たっては、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定」を締結する必要があり(労働基準法38条の3第1項)、過半数代表者の選出手続は、「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続」である必要がある(労働基準法施行規則6条の2第1項2号)。
そして、過半数代表者は、使用者に労働基準法上の規制を免れさせるなどの重大な効果を生じさせる労使協定の当事者であり、いわゆる過半数労働組合がない場合に過半数労働組合に代わってその当事者となることが定められていることを踏まえると、過半数代表者の選出手続は、労働者の過半数が当該候補者の選出を支持していることが明確になる民主的なものである必要があると解される。

2 Y大学において、平成29年度の過半数代表者の選出は、選挙により、A教授の信任投票が行われているところ、選挙権者数は493名、信任票が124票であったことから、A教授の選出を明確に支持している労働者は、選挙権者全体の約25パーセントにすぎない。
したがって、A教授は、「労働者の過半数を代表する者」とは認められないことから、A教授とY大学との間で締結された平成30年度の専門業務型裁量労働制に関する労使協定は無効である。
なお、Y大学は、平成29年度の過半数代表者の選出が有効にされたことの根拠として、本件過半数代表者選出規程15条2項が、信任投票において選挙権者が投票しなかった場合は有効投票による決定に委ねたものとみなす旨規定していること、選挙に先立ち、選挙権者に対して上記規定が周知されていたことなどを指摘する。しかしながら、本件において、労働者は、上記規程の下においても、有効投票による決定の内容を事前に把握できるものではなく、また信任の意思表示に代替するものとして投票をしないという行動をあえて採ったとも認められないから、上記規程によっても、投票しなかった選挙権者がA教授の選出を支持していることが明確になるような民主的な手続がとられているとは認められず、この点についてのY大学の主張は採用することができない。

労働時間の例外規定については、その要件を厳格に解釈することになります。

安易に採用すると後から大変なことになりますのでご注意ください。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2116 インパクトカンパニー#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から5年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

帯には「『小さくても輝く企業』(インパクトカンパニー)に生まれ変わるための『たった一つの勝ちパターン』とは?」と書かれています。

大きさではなく爆音のインパクトが勝敗を決するのです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

売上や利益を求めるほど、会社の収益性はどんどん低下していく。こんな善意による悲劇が、日本の至るところで起きている。」(110頁)

この文章の意味、わかりますか?

「え、なんで?」って思いませんか?

わかる人にはわかると思います。

会社の規模を大きくすることだけがゴールではありません。

むしろ小回りが利くように、意識してあえて組織を大きくしないという選択もあるのです。

今後ますます不透明な時代に突入していきます。

固定資産、固定費といった状況の変化に対応しにくいモノをいかに持たないかが私のモットーです。

賃金282 使用者による一方的な錬成費の支給中止が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、使用者による一方的な錬成費の支給中止が認められた事案を見ていきましょう。

中日新聞社事件(東京地裁令和5年8月28日・労経速2543号25頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社に対し、毎年従業員に支給していた錬成費の支給は、労使慣行(又は黙示の合意)として労働契約の内容となっていると主張して、労働契約に基づき、令和2年分の錬成費及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 民法92条により法的効力のある労使慣行が成立していると認められるためには、同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要し、使用者側においては、当該労働条件についてその内容を決定し得る権限を有している者か、又はその取扱いについて一定の裁量権を有する者が規範意識を有していたことを要するものと解される。
Y社は、昭和30年代から平成31年まで、60年以上にわたり、従業員等に対し、年間で合計3000円を錬成費として支給していたが、この間、労使双方が明示的に当該慣行を排除・排斥した事実は認められない。
したがって、錬成費の支給について、同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われ、労使双方が明示的に当該慣行によることを排除・排斥されていなかったと認められる。

2 Y社が、錬成費について、労働条件である給与の支払と同様に支給を継続する必要がある金員として支給を開始したものとは認められず、その後、Y社が長年にわたり従業員に錬成費を支給してきた事実はあるものの、その間に行われた錬成費の支給に係る変更は、いずれも使用者による一方的な変更によって行われており、労使双方の合意が必要であるものとされていなかったということが認められる。また、従業員においても錬成費を給与に類するものとして受け止めていたとはうかがわれず、Y社は一貫して錬成費の支給手続等について給与の支払とは異なる取扱いをしていたのであるから、錬成費の支給という当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていたとは認められない。

労使慣行のハードルの高さがわかりますね。

また、上記判例のポイント2の考え方は是非知っておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。