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今日は、退職した従業員の競業行為に対する損害賠償請求に関する裁判例を見ていきましょう。
創育事件(東京地裁令和5年6月16日・労判ジャーナル143号48頁)
【事案の概要】
本件は、Y社が、Y社の元従業員Bらに対し、Bらが、会社退職後、競業行為に及んだなどと主張して、債務不履行(競業避止義務違反)又は不法行為に基づく損害賠償として、Bに対し、学力テストの実施事業、Bらに対し、会社在職中に知り得た顧客との取引の各差止めを求めた事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 本件就業規則は、従業員に周知されていたと認めるのが相当であり、本件規定1は、Y社の従業員のうち役職者等がY社退職後にY社と競業する業務を行ってはならないという内容、本件誓約事項は、CがY社退職後にY社と競業する業務を行わず、在職中に知り得た機密情報又は業務遂行上知り得た特別の技術的機密を利用してY社と競業的又は競合的行為を行わないことを誓約する内容、本件規定2は、役職者等がY社退職後に会社在職中に知り得た顧客と取引をしてはならないという内容になっているところ、営業担当者であるBらについてY社の顧客との取引を禁止する必要性が大きい上、従業員に対する制約が大きいとまではいえないことからすれば、Bらが代償措置を受けていないことを考慮しても、Y社在職中に知り得たY社の顧客との取引を禁止することに合理性があると認められないとはいえず、そして、本件各規定の役職者は、Y社において係長以上の役職を有する者と認められるから、Bらのうち、係長以上の役職にあるC及びDは本件規定2に基づきY社に対し会社在職中に知り得た顧客とY社退職後1年間は取引をしてはならない義務を負うが、Bは「役職者」及び「企画の職務に従事していた者」のいずれにも当たると認められないから、Bは、本件規定2が適用されず、Y社に対し上記義務を負わない。
2 Bらが学力テスト事業や取引をしたと認められず、他にBらが社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様でY社の顧客を奪取するなどの行為に及んだと認めるに足りる的確な証拠はないから、Bらは、Y社に対し、不法行為を行ったとはいえない。
競業避止義務違反を理由とする損害賠償請求は、この「自由競争の範囲」が壁となることがとても多いです。
よほど目に余る違法な態様による顧客奪取が認められない限り、一般的には自由競争と言われてしまいます。
競業避止義務の考え方については顧問弁護士に相談をし、現実的な対策を講じる必要があります。