賃金278 覚醒剤所持及び使用の罪での有罪判決を理由に懲戒解雇された従業員への退職金不支給が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、覚醒剤所持及び使用の罪での有罪判決を理由に懲戒解雇された従業員への退職金不支給が有効とされた事案を見ていきましょう。

小田急電鉄事件(東京地裁令和5年12月19日・労経速2542号16頁)

【事案の概要】

本件は、令和4年7月7日付けでY社を懲戒解雇されたXが、Y社に対し、退職金及びこれに対する遅延損害金の支払を請求する事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件犯罪行為は、覚醒剤取締法41条の2第1項(所持)、同法41条の3第1項1号、同法19条(使用)により、いずれも10年以下の懲役に処すべきものとされる相当重い犯罪類型に該当する。直接の被害者は存在しないとはいえ、覚醒剤の薬理作用による心身への障害が犯罪等の異常行動を誘発すること、密売による収益が反社会的組織の活動を支えていること等の社会的害悪は、つとに知られているところである。
約5年にわたる使用歴を有するXの覚醒剤への依存性、親和性は看過し得ない水準にあったといえる。この間、Xは大野総合車両所の車両検査主任の立場にあって、管理職ではないとはいえ、首都圏の公共交通網の一翼を担うY社の安全運行を支える極めて重要な業務を現業職として直接担当していた。摂取から少なくとも数日は尿から覚醒剤が検出されるという調査結果等に照らせば、ほぼ毎週末覚醒剤を摂取していたXが、業務への具体的影響は不明であるものの、身体に覚醒剤を保有した状態で車両検査業務に従事していたことは明らかである。この事態を重く見たY社が、延べ758名に対し延べ21時間10分もの時間をかけて再発防止のための教育措置をとったことは相当であり、これを過大な措置だとするXの主張は失当である。
以上の社内的影響に加え、Y社は監督官庁に本件を報告しており、限られた範囲ではあるが外部的な影響も生じている。なお、車掌や運転士等の鉄道会社やバス会社の従業員の薬物犯罪が報道され、社会的反響を呼んだ例は珍しくないのであって、本件が報道等により社会に知られるには至っていないことは偶然の結果というほかなく、これをXに有利に斟酌すべき事情として重視することはできない。

2 以上によれば、本件犯罪行為は、Xの永年勤続の功労を抹消するほどの不信行為というほかなく、退職金の全部不支給は相当である。

私生活上の非違行為を理由とする退職金の不支給が相当であるとされた事案です。

私生活上の非違行為が争点となる事案では、いかに業務や社内秩序に悪影響があったのかを具体的に主張することが求められます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。