おはようございます。
今日は、医師の配転命令先における義務不存在仮処分等の申立てに関する裁判例を見ていきましょう。
市立東大阪医療センター事件(大阪地裁令和5年8月31日・労判ジャーナル141号16頁)
【事案の概要】
基本事件は、Y社によって運営されているaセンターにおいて勤務していた医師であるXが、Y社によるbセンターへの本件配転命令が無効であると主張して、①bセンターにおいて勤務する労働契約上の義務がないことを仮に定めるとともに、②aセンターにおける就労請求権を前提に、aセンターにおける就労を妨害しないことを命じるよう求める旨の申立てをした事案である。
本件は、Y社が、本件申立てを認容した原決定を不服として、原決定の取消し及び本件申立ての却下を求める保全異議を申し立てた事案である。
【裁判所の判断】
債権者と債務者との間の大阪地方裁判所令和4年(ヨ)第10007号地位保全等仮処分申立事件について、同裁判所が令和4年11月10日にした仮処分決定を認可する。
【判例のポイント】
1 上記中期計画には、医療センターとして担うべき役割のうち救急医療について、「a救命救急センターとの連携を強化することで、多数の二次・三次救急患者を受け入れ、重症度、緊急度に応じた適切な医療を提供する体制の確保を図る」旨の記載があるにとどまり、救急医療に携わる医師の異動に係る記載はないし、同じ中期計画の人材の確保と育成に係る箇所や人員配置に係る箇所においても、医師の異動をうかがわせる記載は見当たらない。
以上によれば、Y社の指摘する中期計画の記載は、XとY社の間の勤務内容や勤務場所の合意に係る原決定の認定を左右するものとはいえない。
2 Y社は、複数の看護師がXによるパワーハラスメントや倫理的に不適切な発言をした旨の相談や報告をしていること自体、本件配転命令に係る業務上の必要性を基礎付ける重要な要素であり、原決定はその評価を誤った旨主張する。
しかし、上記相談及び報告に係る疎明資料は、いずれも聴取結果をまとめたメモであるところ、被聴取者等の氏名がマスキングされており、その他に信用性を補う事情も認められないことからすると、これらに依拠してXが問題のある言動をしていたとか、配転の必要性を基礎付けるに足る複数の相談等の疎明があったとはいえない。
パワハラ等の事案において、報復を避ける目的で、陳述書や聴取書等で氏名をマスキングした上で証拠として提出するケースがありますが、上記判例のポイント2のように信用性を否定されてしまいますので注意しましょう。
配転命令を行う場合には、事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。