セクハラ・パワハラ84 上司の部下に対する侮辱的な発言が不法行為にあたるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

今日は、上司の部下に対する侮辱的な発言が不法行為にあたるとされた事案を見ていきましょう。

ブレア事件(東京地裁令和5年6月8日・労経速2539号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の設置する補習校で勤務していたXが、上司であったY2からパワーハラスメント及びセクシャルハラスメントを受けて適応障害になったと主張して、Y2に対しては不法行為に基づき、Y社に対しては使用者責任に基づき、連帯して364万0610円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Yらは、Xに対し、連帯して55万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y2がXに対してXの年齢、体型及び結婚歴に関して侮辱的発言(「おばさん」、「(お)デブ」、「経験豊富」)をしたことは当事者間に争いはない。他方で、Xは、容貌に関する侮辱的発言(「ブス」)もあったと主張するが、Yらはこれを否認する。
もっとも、この点に関するXの供述(職員会議後に行った飲食店内において「ブスのぶりっ子は見るに堪えない。」と言われた。)は具体的であるし、上記争いのない発言に照らしてY2の発言として不自然さもないから、信用性が高い
これに対し、Y2は、「個人の努力によって差が出る」体型への発言は許容されるが、「先天性のもの」である容貌に関する発言は許容されないという考えを持っているので、「ブス」という発言はしないように心掛けているから、言っていないと思うなどと供述しているが、その内容自体不合理なものであって、信用性に欠ける
したがって、Y2は、Xの要望に関する侮辱的文言(「ブス」)による発言もしたことを認めることができる。
そして、上記各侮辱的文言による発言は、通常、相手に精神的苦痛を生じさせるものであって、特段の事情のない限り不法行為となるものである。
この点について、Yらは、当該発言は、Y2とXとの良好だった関係性や、X自身が自虐的に笑いをとるキャラであったことを背景にされたものであるから、Xに精神的苦痛を与えるものではなく、不法行為とならないなどと主張する。
しかしながら、Y2とXとの関係性について、Yらが提出するメッセージのやりとりを見ても、単なる上司と部下との間の通常のやりとりにすぎず、そこから侮辱的な発言が正当化されるような何らかの特殊な関係性を認めることはできない
そもそも、良好な関係性があったり、本人が自虐的に笑いをとっていたりしたとしても、それによって侮辱的な発言が正当化されるものではない。

発言内容について録音等の直接的な証拠がなくても、上記のとおり、裁判所が認定することは普通にあります。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。