Monthly Archives: 4月 2024

退職勧奨24 原告の辞職または退職合意申込みの意思表示が否定され、賃金の支払が命じられた事案(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、原告の辞職または退職合意申込みの意思表示が否定され、賃金の支払が命じられた事案を見ていきましょう。

永信商事事件(東京地裁令和5年3月28日・労経速2538号29頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されたXが、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、当該雇用契約に基づく令和4年1月分以降の賃金月額22万6000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

地位確認認容
→バックペイ

【判例のポイント】

1 Y社は、令和3年12月27日、Y社代表者が、XがC大へフローリング材を搬送した際にガードマンに暴言を吐くなどしたと聞き及んだことから、Xに問い質したところ、Xが「もう勤まらない。」と発言したため、「勤まらないのであれば、私物を片付けて。」と返答したところ、Xが、貸与された携帯電話及び健康保険証を置いてY社の事務所を立ち去り、翌日以降出勤しなかったことを指摘して、Xが辞職又は退職合意申込みの意思表示をした旨を主張する。
しかし、Y社が主張するXが本件発言をするに至った経緯を前提としても、XがY社における就労意思を喪失したことを窺わせる事情は見当たらず、本件発言は、Y社代表者からC大の案件について問い質されたことに憤慨したXが、自暴自棄になって発言したものとみるのが自然であり、これを辞職又は退職の意思をもって発言したものとみるのは困難である。
また、Xが本件発言をした後、健康保険証等を置いてY社の事務所を去り、翌日から出勤しなかったとする点も、Y社代表者の「勤まらないのであれば、私物を片付けて。」との返答を受けての行動であって、かかる発言は、社会通念上、Xの退職を求める発言とみるのが自然であることからすると、これを解雇と捉えたXがとった行動とみて何ら不自然ではなく、その約3週間後(年末年始を挟んでいるため、近接した時期といえる。)である令和4年1月15日に、XがY社に対し解雇予告手当の支払などを求める書面をY社に送付していることもこれを裏付けるものといえる。
そうすると、Y社主張の事実からXが辞職又は退職合意申込みの意思表示をしたということはできない。

よくある事例です。

上記のようなやりとりから、会社が当該従業員の退職意思を判断することも十分理解できるところですが、裁判所は、非常に慎重に判断します。

会社としては、しっかり、退職届を受領するようにしましょう。

退職勧奨の際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介2090 僕たちは、地味な企業で食っていく。#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

5年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

副業としての「地味な起業」にフォーカスした本です。

リスクが少ない分、リターンも知れていますが、最初の一歩としてはいいと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

そんな見通しが立たない世の中で生きていくには、今働いている会社だけに依存せず、経済的に自立することがとても大切です。『経済的に自立できる個人』とは、会社にいてもいなくても、周囲の人から『指名される力』を持っている人。」(19頁)

サラリーマンのみなさんは、是非、このような「指名される力」を身につけることをおすすめします。

この力を持っていると、どこに配属されようが、どの支店に異動になろうが全く関係なくなります。

では、どうすれば「指名される力」を身につけられるのでしょうか。

是非、いつもお客さんから指名されている「売れっ子」の方をよく観察し、また、話を聞きに行きましょう。

きっと「いや、別に特別なことはしていないけど・・・」と言われるでしょうが、それを鵜呑みにしてはいけません。

その人にとっては特別なことをしているつもりがないだけであって、普通の人がやっていないことを必ずしているはずです。

もじもじしていないで、売れっ子の良い所をどんどん吸収しましょう。

もじもじしているうちに人生は終わってしまいます。

労働者性54 業務委託契約の終了にあたって、原告の労働契約法上の労働者性が否定された事案(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、業務委託契約の終了にあたって、原告の労働契約法上の労働者性が否定された事案を見ていきましょう。

アイグラフィックサービス事件(東京地裁令和5年3月2日・労経速2538号3頁)

【事案の概要】

本件は、平成14年8月以降、Y社が取り扱っていた紫外線硬化装置等の設置、移設、補修及び保守等の業務に携わっていたXが、Y社に対し、(1)主位的に、Y社と労働契約を締結して上記業務を行っていたところ、Y社から令和元年10月20日をもって解雇または雇止めをされたが、いずれも無効であるとして、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②労働契約に基づく賃金の支払を求めるとともに、③不法行為に基づく損害賠償の支払を求め、(2)予備的に、Y社と業務委託契約を締結して上記業務を行っていたところ、Y社から上記日をもって当該契約を解除されたが当該解除は無効であるとして、④業務委託契約上の権利を有する地位にあることの確認、⑤業務委託契約に基づく報酬の支払、⑥不法行為に基づく損害賠償の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 予備的請求のうち、④は却下

2 その余は請求棄却

【判例のポイント】

1 一般に業務委託契約は報酬支払特約が附帯した有償の準委任契約の形式をとるものと解されるところ、その場合、委任事務の受託者は、委託者に対して委任の本旨に従って事務処理義務、善管注意義務、忠実義務を負い、委任事務の履行に応じて約定の報酬請求権等の債権を有することになるが、このような業務委託契約に係る債権債務関係について契約当事者間に争いが生じたとしても、通常、契約当事者は、当該業務委託契約から発生する報酬請求権等の個別の請求権に基づく給付の訴えが可能であり、かつ、それにより紛争の解決を図ることができるから、これとは別個に確認訴訟により契約関係の存否そのものの確認を求める必要がある場合は限定されるものと解される。さらに、本件についてみても、XはY社との間でX主張の業務委託契約が締結された旨を主張するところ、Xの主張を前提としても同契約では、委託の対象となる業務の種類が定められているにとどまり、実際に委託を受けた具体的な業務は特定されていないから、包括的な基本契約にとどまるものといわざるを得ない。そうすると、上記の契約から直ちにXとY社との間における報酬請求権等の具体的な債権債務関係が形成されるものではなくその後の個別の業務委託契約の締結によって初めて具体的な債権債務関係が生じるものと解され、また、Xの主張を前提としても、X主張の業務委託契約により、Y社がXに対して個別の業務を委託することが義務付けられているものとも認め難い。
以上の事情に照らせば、Xにつき、個別契約として締結された業務委託契約に基づく給付請求とは別に、基本契約として締結されたものとみられるX主張の業務委託契約上の権利を有する地位にあることを確認することが、Xの現在の権利又は法律関係に生じている不利益又は危険を除去するために必要かつ適切であるとは認め難い。
したがって、Xの上記主張は採用することができず、本件の予備的請求に係る訴えのうち、業務委託契約上の地位を有することの確認を求める部分は、確認の利益を欠くものといわざるを得ないから、不適法な訴えとして却下されるべきである。

上記論点については、すぐに労働者性に関する判断要素のあてはめに入りがちですが、そもそも論として、確認の利益が認められるかをまずは確認する必要があります。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、判断に悩まれる場合には、事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。