賃金276 酒気帯び運転による懲戒免職処分に伴う退職手当全部不支給の有効性(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、酒気帯び運転による懲戒免職処分に伴う退職手当全部不支給の有効性に関する判例を見ていきましょう。

宮城県・県教委(県立高校教諭)事件(最高裁令和5年6月27日・労判1297号78頁)

【事案の概要】

本件は、上告人の公立学校教員であった被上告人が、酒気帯び運転を理由とする懲戒免職処分を受けたことに伴い、職員の退職手当に関する条例12条1項1号の規定により、退職手当管理機関である宮城県教育委員会から、一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分を受けたため、上告人を相手に、上記各処分の取消しを求める事案である。

原審は、本件懲戒免職処分は適法であるとしてその取消請求を棄却すべきものとした上で、要旨次のとおり判断し、本件全部支給制限処分の取消請求を一部認容した。
被上告人については、本件非違行為の内容及び程度等から、一般の退職手当等が大幅に減額されることはやむを得ない。しかしながら、本件規定は、一般の退職手当等には勤続報償としての性格のみならず、賃金の後払いや退職後の生活保障としての性格もあることから、退職手当支給制限処分をするに当たり、長年勤続する職員の権利としての面にも慎重な配慮をすることを求めたものと解される。そして、被上告人が管理職ではなく、本件懲戒免職処分を除き懲戒処分歴がないこと、約30年間誠実に勤務してきたこと、本件事故による被害が物的なものにとどまり既に回復されたこと、反省の情が示されていること等を考慮すると、本件全部支給制限処分は、本件規定の趣旨を超えて被上告人に著しい不利益を与えるものであり、本件全部支給制限処分のうち、被上告人の一般の退職手当等の3割に相当する額を支給しないこととした部分は、県教委の裁量権の範囲を逸脱した違法なものであると認められる。

【裁判所の判断】

原判決主文第2項から第4項までを次のとおり変更する。
上告人の控訴に基づき、第1審判決中、上告人敗訴部分を取り消し、同部分につき被上告人の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 被上告人は、自家用車で酒席に赴き、長時間にわたって相当量の飲酒をした直後に、同自家用車を運転して帰宅しようとしたものである。現に、被上告人が、運転開始から間もなく、過失により走行中の車両と衝突するという本件事故を起こしていることからも、本件非違行為の態様は重大な危険を伴う悪質なものであるといわざるを得ない
しかも、被上告人は、公立学校の教諭の立場にありながら、酒気帯び運転という犯罪行為に及んだものであり、その生徒への影響も相応に大きかったものと考えられる。現に、本件高校は、本件非違行為の後、生徒やその保護者への説明のため、集会を開くなどの対応も余儀なくされたものである。このように、本件非違行為は、公立学校に係る公務に対する信頼やその遂行に重大な影響や支障を及ぼすものであったといえる。さらに、県教委が、本件非違行為の前年、教職員による飲酒運転が相次いでいたことを受けて、複数回にわたり服務規律の確保を求める旨の通知等を発出するなどし、飲酒運転に対する懲戒処分につきより厳格に対応するなどといった注意喚起をしていたとの事情は、非違行為の抑止を図るなどの観点からも軽視し難い
 以上によれば、本件全部支給制限処分に係る県教委の判断は、被上告人が管理職ではなく、本件懲戒免職処分を除き懲戒処分歴がないこと、約30年間にわたって誠実に勤務してきており、反省の情を示していること等を勘案しても、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとはいえない。

最高裁は、非常に厳しい判断をしました。

同じ事実関係でも、評価のしかた一つで、180度異なる判決が書けることの例です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。