おはようございます。
今日は、未払賃金等請求訴訟において出退勤時刻等を手書きで記載した文書の提出命令が発せられた事案を見ていきましょう。
對馬事件(東京地裁令和5年8月4日・労経速2530号20頁)
【事案の概要】
基本事件は、Y社との間で労働契約を締結し、Y社が経営する中華料理店で勤務していたXらが、時間外労働等をしたほか、交通費を支出し、経費を立て替えたと主張して、Y社に対し、労働契約に基づき未払割増賃金、交通費及び立替経費の支払を求めるとともに、労基法114条に基づき付加金の支払を求めた事案である。
Xは、本件文書1及び2の各文書について、Y社が所持しており、民訴法220条4号イないしホの除外事由に該当せず、取調べの必要性があると主張する。
これに対し、Y社は、Xらとの間で本件文書1は作成していない、Xらに関する本件文書2は給与の計算等が完了するとその都度は破棄していたため、存在しないと主張する。
(別紙1)
1 XらとY社との間で締結した労働条件通知書兼雇用契約書
2 令和3年1月から令和4年10月において、Y社が経営する麻布十番の高級料理店「對馬」でXらが出勤時、退勤時、休憩開始時、休憩終了時の都度手書きでそれら時刻を記載した紙
【裁判所の判断】
Y社は、本決定確定の日から2週間以内に、別紙1文書目録記載2の文書を提出せよ。
【判例のポイント】
1 Y社は、タイムカードを導入しておらず、Xらの労働時間を管理する文書としては本件文書2しかないのであるから、本件文書2は、「労働関係に関する重要な書類」(労基法109条)として、使用者たるY社が5年間の保存義務を負っていると認められる。しかも、違反した場合は罰金の罰則もあるのであるから(同法120条1号)、所持している蓋然性が非常に高いといえる。
このような点に照らすと、本件文書2は給与の計算等が完了するとその都度破棄していたとのY社の上記主張は、破棄の事実について具体的な裏付けもないまま、採用することはできないといわざるを得ない。
したがって、本件文書2は相手方が所持しており、民訴法220条4号イないしホの除外事由に該当しないから、相手方は本件文書2の提出義務を負う。
また、基本事件において、Xらの労働時間に争いがあるから、本件文書2を取り調べる必要がある。
文書提出命令が出された事案です。
文書所持者が文書提出命令に従わない場合や、裁判での使用を妨害する目的で当該文書を滅失した場合、「当該文書の記載に関する相手方の主張」あるいは「その事実に関する相手方の主張」を、裁判所は真実と認めることができます。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。