おはようございます。
今日は、上司や同僚からの叱責等をされた後の自傷行為による負傷の業務起因性が否定された事案を見ていきましょう。
国・柏労基署長事件(東京地裁令和5年2月20日・労経速2528号34頁)
【事案の概要】
本件は、Y社において稼働していたXが、社用車の駐車の仕方について、上司ら3名から指摘、追及を受けていた際、自らの頭部を本件会社の事務所の床に複数回打ち付け、頭部打撲を負ったところ、上記負傷は業務上の災害であると主張して、所轄労働基準監督署長である柏労働基準監督署長に対し、労災保険法の規定に基づく療養補償給付の請求をしたが、本件処分行政庁がこれを支給しない旨の処分をしたことから、上記処分が違法であると主張して、その取消しを求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 本件自傷行為は、社用車の駐車方法に関して、Xが、本件会社の事務所内で上司や同僚2名から詰問や叱責をされた際に行われたものであるから、それらの詰問や叱責は、業務に関して行われたというべきであるし、本件自傷行為があった日以前から、本件会社の従業員らによるXに対する厳しい叱責等は繰り返し行われており、社用車の駐車方法についても、いわば濡れ衣を着せられて詰問・叱責されていたことが認められる。
しかしながら、社用車の駐車方法に関して口頭で叱責等を受けることは、たとえ、それが事実誤認に基づくものであったとしても、何らかの身体的な負傷を伴うような危険を内在する行為であるとは通常認められないところ、本件自傷行為に至る経緯をみても、同僚2名による叱責は2分程度のものであった上、Xに対し、何らかの傷害を負う危険性のある行為をするよう強要した様子は何ら窺えない。
しかるに、Xは、突然、四つん這いになって、声を上げながら、本件会社の事業所の床に複数回に渡り、自らの頭部を打ち付けるという本件自傷行為に及んでいるのであり、Xにおいて、そのような行為を行えば、通常、頭部打撲との傷害を負う可能性があることは、十分認識していたというべきであるから、その結果についても認容しながら本件自傷行為に及んだと認められる。
そうすると、本件自傷行為は、業務上の必要性がないのに、傷害を負う可能性があることを認識し、その結果を認容しながらX自らの意思で行ったというべきであるから、同行為によって本件負傷が生じたとしても、それは、業務に内在し、通常随伴する危険が現実化したものであるとは認められない。
詰問・叱責自体は不適切であったとしても、有形力の行使はなく、また、自傷行為を強要したこともないため、業務起因性が否定されました。
日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。