おはようございます。 本年もよろしくお願いいたします。
さて、今日は、十分な秘密管理措置を講じていたとは認められず、不正競争防止法上の営業秘密該当性が否定された事案を見ていきましょう。
Z営業秘密侵害罪被告事件(札幌高裁令和5年3月17日・労経速2529号7頁)
【事案の概要】
本件は、自動車部品の仕入れ及び販売等を業とするH社の従業員として、同社から同社の営業秘密である同社の販売先、販売商品、販売金額等の履歴が記載された得意先電子元帳を示されていた被告人Aが、①Iと共謀の上、不正の利益を得る目的で、令和2年10月27日、被告人Aが同社の前記得意先電子元帳を管理する同社サーバコンピュータにアクセスし、同得意先電子元帳の、得意先A社及び仕入先B社に係る本件情報①を記録したファイルをH社から貸与されていたパーソナルコンピュータに保存し、その複製を作成する方法で同社の営業秘密を領得し、②被告人Bと共謀の上、不正の利益を得る目的で、同月28日、被告人Aが同社の前記サーバコンピュータにアクセスし、同得意先電子元帳の、得意先C社に係る本件情報②を表示し、SNSアプリケーションソフトLINEの画像キャプチャ機能を利用して本件情報②を画像ファイルとして記録してその複製を作成する方法でH社の営業秘密を領得したという事案である。
原判決は、いずれの事案についても有罪と認め、被告人両名をいずれも罰金30万円に処した。
【裁判所の判断】
原判決を破棄する。
被告人両名は、いずれも無罪。
【判例のポイント】
1 本件方法を含む得意先電子元帳に記録されている情報に接する従業員において、H社が該当情報をその他の秘密とはされない情報と区別し、特に秘密として管理しようとする意思を有していることを明確に認識できるほど、客観的な徴表があると認めることはできず、パーツマンにアクセスする際に、IDやパスワード等を入力するなどの手順を要するということのみでは、H社が十分な秘密管理措置を講じていたと認めることはできないというべきである。
2 原判決は、得意先電子元帳内の情報をテキスト形式で出力しようとした際に警告画面が表示されることも、H社の秘密管理意思の現れであるとしている。しかしながら、警告文の主語は、「株式会社K社が提供するデータの利用範囲は」となっており、第三者への情報提供等の制限の対象は、パーツマンを提供するK社のファイルレイアウト等の秘密情報と解するのが文面上自然で、文末も「第三者へのデータ提供等は『契約違反』に該当します。」となっており、ここでいう「契約」は、K社とH社との間の契約を指すとみるのが自然である。したがって、前記警告画面の警告文の趣旨は、K社のファイルレイアウトなどの秘密情報を保持するものと解されるから、これがH社自身の秘密管理意思の現れとみることはできない。
本件は刑事事件における高裁判例ですが、民事においても参考になります。
営業秘密の3要件(特に秘密管理性)についてはしっかりと確認をし、実務に反映させましょう。
不正競争防止法については、日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。