賃金270 歯科技工士による未払残業代請求及び未払退職金請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、歯科技工士による未払残業代請求及び未払退職金請求に関する裁判例を見ていきましょう。

ツヤデンタル事件(大阪地裁令和5年6月29日・労判ジャーナル139号14頁)

【事案の概要】

本件は、歯科技工所を運営するY社と雇用契約を締結し、歯科技工士として勤務していたXが、Y社に対し、時間外労働に対する労働基準法37条に基づく未払割増賃金の支払を求め、また、雇用契約中に退職金の定めがあったとして、同契約に基づき未払退職金等の支払を求め、さらに、長時間労働等によりうつ病に罹患したとして、不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、1177万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金支払請求一部認容

未払退職金支払請求、損害賠償請求棄却

【判例のポイント】

1 XとY社との間では、本件雇用契約において、平成30年時点において、通常の労働時間に対する賃金の額を月額50万円とする合意が成立していたと認められるから、仮にその後本件賃金規程が定められ、これに基づいて基本給の額が決定されたとしても、本件雇用契約の内容がこれによって規律されることとなるとは認められず(労働契約法7条ただし書)、また、本件賃金規程に基づいてY社の決定した基本給(月額17万3000円)は、他にこれに代わる手当等が支給されるようになった様子もうかがわれないことに照らすと、減額の幅が極めて大きいというほかないから、仮にXが本件賃金規程の制定及びこれに基づく運用を行うことについて同意していたとしても、これに基づいてXの賃金を前記基本給の額とすることについては、不利益の内容及び程度に照らし、Xの自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すると認めることはできない

2 平成11年契約書及び平成30年通知書には、Y社がXに対して退職金を支払う旨の記載があるが、これらの契約書等の作成の際、XとY社代表者との間で、退職金を支給する場合の要件及び額について具体的な話をした様子はうかがわれず、これらの契約書等が、本件雇用契約の内容を示すものとも認め難く、また、XとY社との間で、Y社がXに対して退職金を支払う旨の具体的な合意が成立したとは認められないから、本件退職金請求には理由がない

上記判例のポイント1のような労働条件の不利益変更は、仮に労働者の承諾を得たとしても、自由な意思に基づかないと判断されることがあります。

特に賃金については厳格に解釈されますので注意しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。