退職勧奨22 辞職の意思表示における錯誤の成否と辞職承認処分の適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、辞職の意思表示における錯誤の成否と辞職承認処分の適法性に関する裁判例を見ていきましょう。

栃木県・県知事(土木事務所職員)事件(宇都宮地裁令和5年3月29日・労判1293号23頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の職員であったXが提出した退職願に基づき、処分行政庁がXに対し令和元年10月31日付け辞職承認処分をしたことについて、Xが、Y社に対し、①本件退職願に係る辞職の意思表示は錯誤により無効であり、又は、詐欺を理由として取り消され、そうでなくとも、Xの自由な意思に基づかないものであるから、これを前提としてなされた本件処分は適法であると主張して、その取消しを求めるとともに、②Y社の職員がXに対し違法に退職を強要したと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金110万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

辞職承認処分取消し

その余の請求棄却

【判例のポイント】

1 職員から退職願が提出されている場合であっても、退職願の作成に至る経緯や職員の心身の状況その他の事情に照らし、その意に反しないものと認められない場合には、当該退職願に基づきなされた、当該職員に対する職を免ずる旨の行政処分は、違法であると解するのが相当である。

2 本件面談及び本件退職願の作成・提出はいずれも、Xが双極性感情障害のため傷病休暇を取得して約半月が経過し、なお傷病休暇中であった最中に行われたものであり、28余年にわたる公務員としての身分を失うという人生の重要局面における決断を、熟慮のうえでなし得るような病状であったとはいいがたい

3 本件面談当時のXは、頭の回転が落ちているという状況下において、必要な選択肢が明示的に与えられなかったことで、適切な判断をすることが困難な状況にあったものということができる。

4 本件退職願は自由な意思に基づくものとはいえず、退職がXの意に反しないものであったとは認められない。

精神疾患のある労働者に対して退職勧奨を行う際の注意点がわかる裁判例です。

現場における判断はとても難しいので、顧問弁護士等に相談をしながら慎重を進めるほかありません。

退職勧奨の際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。