おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。
今日は、労働契約書等において、割増賃金の対価と明記された職務手当に、通常の労働時間の対価も含まれているとされた事案を見ていきましょう。
国・渋谷労基署長(カスタマーディライト)事件(東京地裁令和5年1月26日・労済速2524号19頁)
【事案の概要】
本件は、渋谷労働基準監督署長から平成29年12月14日付けで労働者災害補償保険法14条1項に基づく休業補償給付を支給する旨の決定を受けたXが、本件処分には給付基礎日額の算定を誤った違法があると主張して、その取消しを求める事案である。
【裁判所の判断】
請求認容
【判例のポイント】
1 本件労働契約に係る契約書や本件会社の就業規則の記載を踏まえても、XのY社における地位及び職責に照らし、通常の労働時間に対応する賃金が基本給の限りであったと認めるには無理があること、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強いと評価される80時間を大幅に超える1か月当たり150時間前後の法定時間外労働を前提とする職務手当を支給することは当事者の通常の意思に反することを総合考慮すると、本件Y社から支払われた職務手当には、その手当の名称が推認させるとおり、通常の労働時間も含め、XのD事業部マネージャーとしての職責に対応する業務への対価としての性質を有する部分が一定程度は存在したと認めるのが相当である。
Y社は、職務手当の全額を割増賃金として支給する旨の合意は必ずしも長時間の時間外労働等をXに義務付けるものではなく、むしろ労使双方にとって一定の合理性があると主張する。しかし、時間外労働が1か月当たり80時間を大幅に超過しない限り、職務手当を超える割増賃金が発生しないという賃金体系は、直ちに長時間の時間外労働等を義務付けるものではないにしても、それを誘発する効果があることは否定し難い。
この点は、Xが平成27年12月から平成28年6月までの間において80時間を超える法定時間外労働を行った月は4か月であり、うち3か月の法定時間外労働時間数は100時間を超えていることからも裏付けられており、労働者であるXにとって極めて不利益の大きい合意というほかなく、これが当事者の通常の意思に沿うものと認めることはできない。したがって、Y社の上記主張は採用することができない。
2 職務手当は、その全額が労基法37条に基づく割増賃金として支払われるものと認めることはできず、通常の労働時間の賃金として支払われる部分が含まれると認められる。
本件労働契約に係る契約書においても、本件会社の就業規則においても、職務手当に含まれる労基法37条に基づく割増賃金に対応する時間外労働等の時間数は記載されておらず、その他本件全証拠に照らしても、本件労働契約において、職務手当における通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することはできないものといわざるを得ない。
したがって、職務手当の支払をもって、本件会社がXに対し労基法37条に基づく割増賃金として支払ったとする前提を欠くことになるから、結局のところ、職務手当の全額を通常の労働時間の賃金に当たるものとして給付基礎日額を算定するよりほかないというべきである。
固定残業制度に関する裁判例をほぼ落ち着いてきていますので、しっかり制度運用さえできれば、無理なく有効と判断されます。
判例の考え方を正確に理解しないで、素人判断で制度を導入することは百害あって一利なしなので気を付けましょう。
日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。