おはようございます。
今日は、管理本部経理部長の管理監督者性に関する裁判例を見ていきましょう。
国・広島中央労基署長(アイグランホールディングス)事件(東京地裁令和4年4月13日・労判1289号52頁)
【事案の概要】
本件は、Y社に勤務していたXが、業務上の事由により適応障害を発症したとして、処分行政庁に対し、労災保険法に基づく休業補償給付の請求をし、平成30年3月23日付けで休業補償給付の支給決定を受けたのに対し、Xは労働基準法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」(以下に該当せず、本件処分には給付基礎日額の算定に誤りがあるとして、その取消しを求める事案である。
【裁判所の判断】
広島中央労働基準監督署長が原告に対し平成30年3月23日付けでした労働者災害補償保険による休業補償給付を支給する旨の処分を取り消す。
【判例のポイント】
1 労基法41条2号の管理監督者とは、労務管理について経営者と一体的な立場にある労働者をいい、具体的には、当該労働者が労働時間規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務や権限を担い、責任を負っているか否か、労働時間に関する裁量を有するか否か、賃金等の面において、上記のような管理監督者の在り方にふさわしい待遇がされているか否かという三点を中心に、労働実態等を含む諸事情を総合考慮して判断すべきである。
そして、ここでいう経営者と一体的な立場とは、あくまで労務管理に関してであって、使用者の経営方針や経営上の決定に関与していることは必須ではなく、当該労働者が担当する組織の範囲において、経営者が有する労務管理の権限を経営者に代わって同権限を所掌、分掌している実態がある旨をいう趣旨であることに留意すべきであり、その際には、使用者の規模、全従業員数と当該労働者の部下従業員数、当該労働者の組織規定上の業務と担当していた実際の業務の内容、労務管理上与えられた権限とその行使の実態等の事情を考慮するとともに、所掌、分掌している実態があることの裏付けとして、労働時間管理の有無、程度と賃金等の待遇をも併せて考慮するのが相当である。
2 Xは、経理部の部下に対する労務管理や人事考課につき何らの権限を持たず、決定権限を与えられていたのは、所掌事務のうち仕訳についてのみであったことになる。権限の範囲が限定されていたことにつき、Xが入社間もないことに伴う時限的措置であったと認めるに足りる証拠もない。
Y社においては経理業務の整備が上場へ向けた重要課題であったことを踏まえても、上記の権限しか有しないXについて、経営者と一体となって労働時間規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務や権限を担っていたと評価することは困難である。
3 Xには、労働時間や出退勤に関し、労基法による労働時間規制の対象外としても保護に欠けないといえるような裁量はなかったと評価するのが相当である。
ここでも管理監督者性が否定されています。
上記判例のポイント1の「経営者と一体的な立場」の意味はしっかりと理解しておきましょう。
日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。