おはようございます。
今日は、インセンティブ給与合意に基づく賃金残金等支払請求に関する裁判例を見ていきましょう。
Oriental Kingdom Group事件(東京地裁令和4年12月6日・労判ジャーナル135号64頁)
【事案の概要】
本件は、Y社との間で労働契約を締結して就労していたXが、Y社との間で、月例賃金25万円に加えて不動産売買業務に関する売上額の50%に相当する額をインセンティブ給与として支払う旨の合意をしたなどと主張して、労働契約に基づき、Y社に対し、賃金残金等の支払を求めるとともに、Y社が本件合意に係る合意書の会社作成部分が偽造されたものであるとして警視庁大崎警察署に被害申告をしたことがXの名誉及び信用を毀損するものであるなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料30万円等の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 本件合意書のY社作成部分の成立の真正について、本件合意書のY社の印影は、Y社の印章から顕出されたものと認められるから、当該印影は、特段の事情がない限り、Y社の意思に基づいて顕出されたものと推定され、この推定がされる結果として、本件合意書のY社作成部分は、民訴法228条4項にいう「本人又はその代理人の(中略)押印があるとき」の要件を充たし、その全体が真正に成立したものと推定されることとなるが、本件合意書に記載されたインセンティブ給与の売上額に対する割合は著しく高く、Xにとって極めて有利な内容となっている反面、Y社にとっては、そのような内容の合意をする経済的合理性に乏しいものであったことや本件労働契約締結後のXとY社代表者との間のやりとりに係る事実経過等を総合的に考慮すると、Xが、本件印章保管ロッカーの鍵の部分を破壊して、これを開け、その中に保管されていた本件印章を冒用するなどして、本件合意書のY社作成部分を偽造した疑いが濃いといわざるを得ないこと等から、本件合意書のY社の印影がY社の意思に基づいて顕出されたものとはいえず、本件合意書のY社作成部分が真正に成立したものであることについての推定は及ばないというべきである。
二段の推定が覆った事案です。
裁判所がどのような点に着目をしているかをしっかりと確認しておきましょう。
日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。