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今日は、業務委託契約と題して署名押印なく締結された契約が労働契約にあたるため、その解消が無効とされた事案を見ていきましょう。
TWS Advisors事件(東京地裁令和4年3月23日・労経速2507号28頁)
【事案の概要】
甲事件は、原告Aが、被告a社に対し、被告a社との間で締結した契約は業務委託契約ではなく労働契約である旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに平成30年1月から同年4月分まで及び平成31年1月分以降の未払賃金の支払を求めるとともに、原告Aが被告a社で就労していたにもかかわらず、被告a社が原告Aに対し失業等給付を受給するよう指示したことにより、失業等給付にかかる返還債務268万7448円の損害が発生した旨主張して、不法行為に基づき損害賠償の支払を求める事案である。
乙事件は、原告Aとの間で別紙1物件目録記載の建物につき使用貸借契約を締結していた原告b社が、原告Aに対し、原告Aと被告a社との間の業務委託契約が解消されたことにより、原告Aと原告b社との間の使用貸借契約も終了したにもかかわらず、原告Aが違法に居住を継続した旨主張し、債務不履行、不法行為又は不当利得に基づき、賃料相当損害金86万7225円の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
1 原告Aが、被告a社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告a社は、原告Aに対し、102万6316円+遅延損害金を支払え。
3 被告a社は、原告Aに対し、平成31年1月から本判決確定の日まで、毎月末日限り、50万円+遅延損害金を支払え。
4 原告Aの被告a社に対するその余の請求をいずれも棄却する。
5 原告b社の原告Aに対する請求を棄却する。
【判例のポイント】
1 原告Aの業務内容は、不動産取引に関連する種々の業務のほか、被告a社の従業員の管理及び採用面接、会議の議事録の作成及び訴訟対応など、被告a社が原告Aの委託業務として主張する土地の仕入れにとどまらず、多岐にわたっており、被告a社の組織体制上、原告Aが執行役員あるいは部長という肩書でE及びBと各従業員との間の指揮命令系統に組み込まれていたことを踏まえると、原告Aは、契約時にあらかじめ具体的に特定された業務だけではなく、E又はBからの指示を受けながら、多様な業務を遂行していたと認められる。
また、原告Aに対するEからの業務指示は、特定の案件における細かい業務分担や部下従業員への指導方法に及んでいることからすると、原告Aが受ける業務指示の内容は、個別具体的であったと評価できるし、業務の指示に対する諾否の自由や労務提供の代替性を有していたことをうかがわせる事情もない。
さらに、原告Aの勤務時間については、タイムカード等により厳格に管理されておらず、始業終業時刻について明確な定めがあったとは認められないものの、スケジュールを常時共有することを求められていたことに加え、原告Aは、休日以外はほぼ毎日、概ね9時頃から被告a社の事務所又は取引先において業務を行っており、加えて休日も業務を行うことがあったのであるから、実体として勤務時間や勤務場所についての裁量が大きいとはいい難い。
以上によれば、原告Aは、被告a社の指揮命令に従って労務を提供していたというべきである。
2 また、原告Aの報酬は、売上に応じたインセンティブとして支払われているものがあるものの、平成30年1月ないし4月までは休日出勤の日数に応じた報酬が支払われ、同年5月から12月までは基本となる報酬が月額30万ないし50万円であることを前提に失業等給付との差額が支払われており、前記アのとおり、原告Aの業務が多岐にわたっていたことも踏まえると、原告の報酬は、特定の業務の結果に対してではなく、労務の提供全体に対して支払われていると評価すべきである。
以上の検討結果に加え、原告Aには、経費の負担はなく、被告a社から従業員証明書、机、パソコン及びメールアドレスのほか、無償で社宅が用意されており、個人事業者としての性格が強いとはいえないことも考慮すると、原告Aの被告a社との間の契約は、労働者が使用者の指揮命令に従って労務を提供し、使用者がその対価として賃金を支払う契約である評価できるから、労働契約であるというべきである。
実体は雇用にもかかわらず、業務委託契約を締結している多くの会社のみなさん、こういう契約、よく見かけますので、ご注意ください。
労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。