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今日は、合意解約申込みの撤回が認められなかった事案を見ていきましょう。
日東電工事件(広島高裁令和4年6月22日・労判ジャーナル131号40頁)
【事案の概要】
本件は、Y社との間で有期労働契約を締結していたXが、Xについて辞職又は合意解約を理由とする上記労働契約の終了の効果が生じておらず、かつ、上記労働契約が労働契約法19条によって更新されたと主張し、Y社に対し、(1)Xが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、(2)賃金請求、(3)賞与請求をした事案である。
原判決は、XとY社の労働契約は、Xの退職の意思表示とY社の承諾により終了しているとして、Xの地位確認請求を棄却し、未払賃金等支払請求を一部却下一部棄却したため、Xが控訴した。
【裁判所の判断】
控訴棄却
【判例のポイント】
1 本件各退職願の提出行為が、XとY社の労働契約について一方的な解約であって、使用者に到達した時点で解約告知としての効力を有するものといえるか検討する。
Xは、本件各退職願の書式は、Y社の作成のものを用いており、Xに適用されるY社の就業規則の規定内容を併せ考慮すると、本件各退職願を解約告知としての退職の意思表示と直ちに認めることは困難である上、Xの本件各退職願の提出の意図を併せ考慮すると、XがY社の担当者と退職についてなお協議する意思を有していたことは明らかであり、本件各退職願の提出行為をもって、解約告知としての退職の意思表示があったことを認めることはできない。
2 ①Xが所属するd部門の最上位の役職に位置するB部長が、令和2年1月31日の時点で、本件各退職願のコピーに決裁印を押していること、②Xは、同日、Hと退職を前提として話合いをしていること、③同年2月3日の本件話合いの時点で、Xは、「総務は、撤回してもそのまま処理し、撤回は出来ないと言っていましたよ。」と述べていること、④Xは、本件各退職願を提出した以降、業務に従事しておらず、本件話合い以降にY社は社内に立ち入ることもしてないことが認められる。
そして、本件各退職願には、退職希望日は記載されていないところ、Y社は、Xに対し慰留や再考を促すことはせず、本件各退職願の提出以降、Xの出社を阻止までしていることからすれば、Y社としては、Xのその時点での言動を考慮し、提出した日を退職を希望する日と解釈して、これに応じて退職を承諾したと解することができ、そして、遅くとも本件話合いの中で控訴人が退職の意思を撤回するかのような言動をとった時点までには、既に、これをXに対し伝えていたと認めることができる。
以上によれば、Xは、本件各退職願に基づく退職の意思表示に対して承諾しており、かつ本件話合いの中でXが退職の意思を撤回するかのような言動をとったことがあったとしても、同時点では、既に、Y社は、承諾し、しかもその承諾の意思表示がXに対して到達していた(C部長は、Xの退職願が受理されていること、それをXも了知していることを前提に、本件話合いで本件退職願①の不備を補正させようとしていた。)のであるから、XとY社との間の労働契約は、既に合意解約によって終了したと認めることができる。
原審判決については、こちらをご覧ください。
この論点は、事前に知っているのと知らないのとで、結論が大きく変わってきてしまいます。この機会に是非、しっかりと押さえておきましょう。
退職合意をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。