Daily Archives: 2023年5月8日

賃金248 在宅勤務者への出社命令に業務上の必要性が認められなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、在宅勤務者への出社命令に業務上の必要性が認められなかった事案を見ていきましょう。

ITサービス事業A社事件(東京地裁令和4年11月16日・労経速2506号28頁)

【事案の概要】

Xは、令和2年5月、ITソフト開発やSES等の事業を行うY社との間で、労働契約を締結した。同契約書には、就業場所について「本社事務所」と、賃金月額(40万円)には「毎月45時間分のみなし残業」が含まれる旨の記載があった。
Xは、令和3年3月3日まで自宅でリモートワークを行い、初日のほかに、Y社の事務所に出社したのは1度だけであった。Xが自宅で業務を行っている際には、Slackのダイレクトメッセージ機能を用いて、他の従業員との間でやりとりをしていたが、そのやりとりには、Y社代表者を揶揄する内容が含まれていた。
Xが本件やり取りを行っていたことが判明したことから、Y社代表者は、令和3年3月2日、Xに対し、Xを同月4日から出勤停止1か月等とする懲戒処分を通知するとともに、「管理監督の観点からリモートワーク禁止とする」旨を通告し、同月4日以降のY社の事務所への出勤を求めた(なお、懲戒処分は後に保留とされた。)。
Y社は、令和3年2月分の賃金については、Xの労務提供があったにもかかわらず、その一部(5万7144円)を支払っていない。また、同年3月分以降の賃金については、Xの欠勤を理由に同月分として3万8095円のみを支払った。
Xは、Y社の違法な懲戒処分等によって労務を提供できなかったと主張して、民法536条2項に基づき、令和3年から同年4月4日までの未払賃金等の支払いを求めて提訴した。

これに対し、Y社はXが報告していた勤務時間に虚偽報告等があると主張して、賃金規程6条に基づき、不就労時間分の賃金の返還を求めて提訴した。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、5万7163円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、40万円+遅延損害金を支払え

Y社の反訴請求は棄却

【判例のポイント】

1 本件労働契約に係る契約書には、その就業場所は「本件事務所」とされているものの、Y社代表者自身が、①デザイナーは自宅で勤務をしても問題ない、②リモートワークが基本であるが、何かあったときには出社できることが条件である旨供述していること、③現に、Xは、令和3年3月3日まで自宅で業務を行い、初日のほかに、Y社の事務所に出社したのは1度だけであり、Y社もそれに異論を述べてこなかったことからすると、本件労働契約においては、本件契約書の記載にかかわらず、就業場所は原則としてXの自宅とし、Y社は、業務上の必要がある場合に限って、本件事務所への出勤を求めることができると解するのが相当である。

2 たしかに、Xは他の従業員との間で、本件やり取りも含め、必ずしも業務に必要不可欠な会話をしていたわけではないことは認められるものの、Y社が提出する証拠によっても、その時間が、Y社が主張するような長時間であるとは認められず、これにより業務に支障が生じたとも認められない。また、一般にオンライン上に限らず、従業員同士の私的な会話が行われることもあり、本件やり取りの内容は、Y社代表者を揶揄する内容が含まれる点でY社代表者が不快に感じた点は理解できるものの、そのことを理由に、事務所への出社を命じる業務上の必要性が生じたともいえない
これに加えて、Y社代表者は、令和3年3月2日午後3時24分にXに対し、メールを送った後、Xとの間で、メール上で、本件やり取りの当否をめぐって、お互いを非難しあう中で、Xの反省がないことを理由にその5時間後に本件懲戒処分とともに、本件出社命令を発したものであり、そのような経緯を踏まえると、本件の事情の下においては、本社事務所への出勤を求める業務上の必要があったとは認められない。
そうすると、Y社は、本件労働契約に基づき事務所への出社を命じることができなかったというべきであって、本件出社命令は無効であるといえる。

使用者側の判断・対応には共感しますが、裁判所の判断は上記のとおりです。

リモートワークを主たる働き方として採用している会社の経営者のみなさんは、上記判例のポイント1をしっかりと押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。