Daily Archives: 2023年5月1日

労働時間91 就業規則に記載がない勤務シフトの使用を理由に、変形労働時間制の適用が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、就業規則に記載がない勤務シフトの使用を理由に、変形労働時間制の適用が無効とされた事案を見ていきましょう。

日本マクドナルド事件(名古屋地裁令和4年10月26日・労経速2506号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、
①Y社が、XとY社との労働契約が平成31年2月10日付け退職条件通知書兼退職同意書による合意解約により終了したと主張するのに対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、
②主位的に退職の意思表示が無効であることを理由とする労働契約に基づく賃金請求として、予備的に違法な退職強要があったことを理由とする不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求として、退職日の翌日である令和元年5月1日から本判決確定の日まで、毎月末日限り45万4620円+遅延損害金の支払、
③時間外労働を行ったと主張して、労働契約に基づき平成29年3月13日から平成31年2月12日までの未払割増賃金合計486万0659円の一部である61万0134円+遅延損害金の支払、
④付加金+遅延損害金の支払
⑤(ア)Y社における業務や違法な退職強要等により労作性狭心症及びうつ病を発病したことを理由とする不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求若しくは(イ)上司らによるパワーハラスメント等により人格的利益を侵害されたことを理由とする使用者責任(民715条)に基づく損害賠償請求として、慰謝料500万円の一部である200万円+遅延損害金の支払
を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、61万0134円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金61万0134円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社は就業規則において各勤務シフトにおける各日の始業時刻、終業時刻及び休憩時間について「原則として」4つの勤務シフトの組合せを規定しているが、かかる定めは就業規則で定めていない勤務シフトによる労働を認める余地を残すものである。そして、現にXが勤務すしていたQ1店においては店舗独自の勤務シフトを使って勤務割が作成されていることに照らすとY社が就業規則により各日、各週の労働時間を具体的に特定していたものとはいえず、同法32条の2の「特定された週」又は「特定された日」の要件を充足するものではない

2 Y社は、全店舗に共通する勤務シフトを就業規則上定めることは事実上不可能であり、各店舗において就業規則上の勤務シフトに準じて設定された勤務シフトを使った勤務割は、就業規則に基づくものであると主張する。
しかし、労働基準法32条の2は、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化することを目的として変形労働時間制を認めるものであり、変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することは許容しておらず(通達)、これは使用者の事業規模によって左右されるものではない
加えて、労働基準法32条の2第1項の「その他これに準ずるもの」は、労働基準法89条の規定による就業規則を作成する義務のない使用者についてのみ適用されるものと解される(通達)から、店舗独自の勤務シフトを使って作成された勤務割を「その他これに準ずるもの」であると解することはできない。
よって、Y社の定める変形労働時間制は無効であるから、本件において適用されない。

管理監督者性に関する別の日本マクドナルド事件同様、他の従業員への波及効果が大きいですね。

シフト表で事前に出勤日を管理するだけでなく、就業規則上でも特定をする必要があることをしっかりと押さえておきましょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。