Monthly Archives: 4月 2023

本の紹介1889 群れない力(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

今から10年前の本ですが、再度、読み返してみました。

サブタイトルは、「『人付き合いが上手い人ほど貧乏になる時代』における勝つ人の習慣」です。

要するに、人付き合いはほどほどに。付き合う人は選びましょう。

ということです。

八方美人ではいくら時間があっても足りません。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

本来誰もが、好きなことに好きなだけ打ち込む権利というものを持っているんです。しかし、人と違ったことをやるのはいけないことだ、一人でいるのはよくないことだ、と学校教育から社会にでてまでずーーーっと洗脳され続けているがために、いつの間にか好きなことに打ち込むことをあきらめてしまうのです。そしていつしか、自分が何が好きであったかさえ忘れてしまうのです。」(227頁)

まさに今の日本そのものです(笑)

教育の賜物です。

個性の「こ」の字も育つはずのない社会において、ある日突然、個性を求めても無理な話です。

嫌われないこと、批判されないこと、目立たないことこそが、この国の多くの人にとっての美徳なのですから。

いつでもどこでも人の目を気にして、顔色を窺い、多数意見に寄り添う。

まさに付和雷同そのものです。

いつまでたってもマスクを外せないわけですよ。

感染予防ではなく批判予防ですから。

退職勧奨20 懲戒処分の対象となる旨を告知した上で行う退職勧奨は、原則として不法行為を構成するとはいえないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、懲戒処分の対象となる旨を告知した上で行う退職勧奨は、原則として不法行為を構成するとはいえないとされた事案を見ていきましょう。

A病院事件(札幌高裁令和4年10月21日・労経速2505号45頁)

【事案の概要】

本件は、①Y社事務部長は、Xの勤務先病院の人事を統括する者として、Xに対し、社会通念上相当と認められる限度を超えた退職勧奨を行い、②Y社主任科長は、Xの所属部署の上司として、Xに関する虚偽の非違行為の情報をY社事務部長等に提供するなどして違法な退職勧奨をさせた旨主張するXが、Y社らに対し、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料の一部である600万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

原審はXの請求を棄却したところ、Xがこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、労働者に対して懲戒処分の対象となる旨を告知した上で行う退職勧奨は、労使の立場が対等ではないことや懲戒処分が労働者に与える不利益が大きいことから、労働者の退職の意思決定の自由に制約を及ぼす可能性が高く、原則として、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱し、不法行為を構成すると考えるべきである旨主張する。
 しかしながら、そもそも退職勧奨自体は当然に不法行為を構成するものではないし、仮に労働者に対して懲戒処分の対象となる旨を告知した上で退職を勧奨する場合であっても、それが、例えば、解雇事由が存在しないにもかかわらずそれが存在する旨の虚偽の事実を告げて退職を迫り、執拗又は強圧的な態様で退職を求めるなど、社会通念上自由な退職意思の形成を妨げる態様・程度の言動をした場合に当たらなければ、意思決定の自由の侵害があったとはいえず、かえって、当該労働者としては、懲戒処分の当否を争うのか否か、すなわち、懲戒処分を受ける危険にさらされることと自主退職してこれを避けることとの選択をする機会を得られるという利益を享受することができる場合もあるといえる。そうすると、懲戒処分の対象となる旨を告知した上で行う退職勧奨が原則として不法行為を構成するということはできないというべきである。

2 Xは、Y社事務部長がXに対して自主退職しなければ解雇を含む何らかの懲戒処分がされる旨を告げたと認定すべきであり、懲戒権を背景とした退職勧奨をしたから、Y社事務部長による退職勧奨行為は不法行為を構成する旨主張する。
しかしながら、Y社事務部長はXに対して処分の内容等をいまだ検討中であるという旨を告げたにとどまり、虚偽を告げてXを誤信させるなどXの意思決定の自由を侵害したとはいえない。Xが(懲戒)解雇となることを恐れる旨の発言をし、Y社事務部長がこれを否定しなかったことは認められるものの、Y社事務部長がXの誤解を招く言動をしたとはいえず、Xが自らそのような危惧感を持ったにすぎない。

上記判例のポイント1は重要ですので、是非、しっかりと押さえておきましょう。

退職勧奨の際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介1888 エースと呼ばれる人は何をしているのか#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

今から9年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

著者は、ダンスプロデューサー・指導者の夏まゆみさんです。

帯には「芸能人も、ビジネスマンも、成功する人はみんな、同じことをやっている。」と書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『こんないやなことがあったんです』という、『相談にみせかけた愚痴』です。若いアイドルたちならまだしも、いい歳をした大人から相談があると言われたときは、『相談にはもちろんのるけれど、私は建設的なことしか話したくないから、愚痴なら聞かないよっ』とハッキリ申し上げるようにしています。愚痴や恨みごとを聞かせるのは、不幸を配るのと同じことです。」(185頁)

これだけ窮屈で生きづらい社会ですから、愚痴や恨みごとの1つや2つ言ったところでバチはあたりません。

そうやって息抜き、ガス抜きをして、また明日からがんばるわけですから。

とはいえ、息抜き、ガス抜きはお互いに愚痴や恨みごとがある者同士でやるべきです。

いわゆる「お互い様」が成り立ちますので。

「相談にみせかけた愚痴」は多くの場合、お互い様が成り立たないため、聞き手からすると「時間泥棒」以外の何物でもありません。

相手を選んで愚痴りましょう。

賃金247 年俸制において、一方的な固定残業代の減額が年俸額決定権の濫用にあたるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、年俸制において、一方的な固定残業代の減額が年俸額決定権の濫用にあたるとされた事案を見ていきましょう。

インテリム事件(東京高裁令和4年6月29日・労経速2505号10頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で本件労働契約を締結し、退職するに至ったXが、次の(1)のとおり、Y社に対し、本件賃金減額①ないし③について、本件労働契約に基づく未払賃金の支払請求をし、また、次の(2)のとおり、Y社及びY社の代表取締役であるY1に対し、Xを医薬品の延慶担当から外したことや、Xを退職にまで至らせたこと等について、不法行為による損害賠償請求等をする事案である。
(以下略)

原審は、本件労働契約に基づく賃金請求等につき、本件賃金減額①、③に係る賃金の減額は違法・無効であるとしつつ、みなし手当の減額については、労働者であるXの同意等がなければできない通常の賃金の減額には当たらないから、違法ではないとして、その差額分の賃金請求は認められないなどと判断した。
また、原審は、不法行為による損害賠償請求等については、一部認められるが、その余の各請求は認められないと判断した。
Y社らがその違法な行為によりXを退職せざるを得なくさせたことは不法行為に当たるが、その損害額は、66万円であると判断をしている。

【裁判所の判断】

1 原判決のうち、XとY社らに対する部分を次のとおり変更する。
2 Y社らは、Xに対し、連帯して33万円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、39万円+遅延損害金を支払え。
4 Y社は、Xに対し、75万円+遅延損害金を支払え。
5 Y社は、Xに対し、45万円+遅延損害金を支払え。
6 Y社は、Xに対し、43万円+遅延損害金を支払え。
7 Y社は、Xに対し、10万4032円+遅延損害金を支払え。
8 Y社は、Xに対し、33万円+遅延損害金を支払え。
9 Y社らは、Xに対し、連帯して110万円+遅延損害金を支払え。
10 Y社らは、Xに対し、連帯して66万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 固定残業代として支払う旨合意されていたと認められる、14期のみなし手当(月額22万円)は、年俸960万円(月額80万円)に含める旨の合意がされていたことが認められる。このように、本件労働契約に係る年俸制の合意の内容は、職務給と同様に、みなし手当もその一部に含めるものであったというのであり、そうである以上、このような、みなし手当を減額できるのは、職務給の減額の場合と同様、Y社に最終的な年俸額決定権限を付与した本件賃金規程の定めに基づいて初めて可能であったものというべく、時間外労働等に従事していた時間がみなし手当で定められている時間より実際には少ないなどの理由から、Y社において自由に減額することはできない性質のものであったというべきである。
・・・Y社が本件賃金減額①を行うに当たって、合理的で公正な評価や手続を履践したとは認められず、Y社は、合理性・透明性に欠ける手続で、公正性・客観性に乏しい判断の下で、年俸額決定権限を濫用してXの15期の年俸を決定したものと認められる。そうすると、本件賃金減額①については、固定残業代月額3万8000円分の減額についても、違法・無効なものと解するのが相当である。

2 たとえ割増賃金の支払方法について、様々な方法が許されるとしても、本件みなし手当は、本件労働契約において年額960万円として合意されていた年俸の一部を構成するものと位置付けられていたのであるから、これは、基本給の一部を構成する場合と同様に捉えられるものである。それにもかかわらず、Y社は、このような性質を有する「みなし手当」を、合理性・透明性に欠ける手続で、公正性・客観性に乏しい判断の下で、年俸決定権限を濫用して本件賃金減額①ないし③を行ったものであるから、このような一方的な減額は、許されないものといわなければならない。

個人的には、使用者側からするとあえて年俸制を採用するメリットはほとんどないように思います。

年俸制を採用している会社では、残業代に関するいくつかの特殊な問題がありますので、事前に必ず顧問弁護士に相談をして対応しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

本の紹介1887 社長のための士業のトリセツ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

帯には「『使える士業』かどうかは、経営者が決める!」と書かれています。

どちらかというと経営者よりも士業のみなさんが読むべき本のように思いました。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

士業が事業を拡大するうえで、標準化は避けて通れない。ただし、標準化は自ずと士業の顔を消していく。標準化の目的は、『この先生』という士業の個性を排除することにある。・・・だが『経営者として満足するか』と問われれば一抹の疑問がある。・・・つまり経営者は、『この先生』に対して信頼を寄せ、依頼する。」(13~14頁)

これは士業に限った話ではありません。

すべてのサービス業において同じ現象が起こります。

組織ではなく個として仕事をしていくのであれば、自ずと取り扱える業務量は限られてきます。

手を広げすぎず、自分ができる範囲で仕事をすることを強く意識しておかなければ、あっという間にキャパオーバーになってしまいます。

「やること」よりも「やらないこと」を決めておくことが肝心です。

競業避止義務32 競業避止義務違反に基づく会社からの損害賠償請求の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、競業避止義務違反に基づく会社からの損害賠償請求の可否について見ていきましょう。

REI元従業員事件(東京地裁令和4年5月13日・労判1278号20頁)

【事案の概要】

本件のうち、甲事件は、Y社が、Xに対し、Xが令和2年10月9日付け秘密保持契約書に定める競業避止義務に違反し、あるいは自由競争の範囲を逸脱した違法な競業を行ったと主張して、債務不履行又は不法行為に基づき、約定損害額139万8331円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

また、本件のうち、乙事件は、Xが、Y社に対し、Xが在職中であった令和2年9月1日から同月30日までの賃金等36万5150円が支払われていないと主張して、雇用契約に基づき、同額の支払を求めるとともに、債務不履行に基づき、同額に対する退職後に到来する賃金支払日の翌日である同年10月16日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律6条1項の定める年14.6%の割合による遅延利息の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 甲事件に係るY社の請求を棄却する。

2 Y社は、Xに対し、36万5150円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、主にシステムエンジニアを企業に派遣・紹介する株式会社であって、その具体的な作業については各派遣先・常駐先・紹介先会社の指示に従うものとされていたと認めることができる。このようなY社におけるシステムエンジニアの従事する業務内容に照らせば、Y社がシステム開発、システム運営その他に関する独自のノウハウを有するものとはいえないし、Xがそのようなノウハウの提供を受けたと認めるに足りる証拠もないのであって、Y社において本件合意書が退職後の競業避止義務を定める目的・利益は明らかとはいえない

2 ・・・いずれも文言上、転職先の業種・職種の限定はないし、地域・範囲の定めもなく、「取引に関係ある」、「競合関係にある」又は「お客先に関係ある」事業者とされ、Y社の取引先のみならず、Y社の客先の取引先と関係がある事業者までも含まれており、禁止する転職先等の範囲も極めて広範にわたるものといわざるを得ない。・・このようなXの職務経歴に照らすと、上記の範囲をもって転職等を禁止することは、Xの再就職を著しく妨げるものというべきである。

3 以上のように、Y社の本件合意書により達しようとする目的は明らかではないことに比して、Xが禁じられる転職等の範囲は広範であり、その代償措置も講じられていないことからすると、競業禁止義務の期間が1年間にとどまることを考慮しても、本件合意書に基づく合意は、その制限が必要かつ合理的な範囲を超える場合に当たるものとして公序良俗に反し、無効であるといわざるを得ない。

だいたいこういう結論になります。

競業避止義務の考え方については顧問弁護士に相談をし、現実的な対策を講じる必要があります。

本の紹介1886 「本物の営業マン」の話をしよう(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

周りの知人を見ると、営業力がある人は、どんな仕事をしても、たいてい結果を出しています。

では、ここでいう「営業力」の要素とは何でしょうか?

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

営業の仕事をしていくうえでは、真摯な人柄ばかりではなく情報収集力、分析力、構想力、提案力などが必要で、そういう意味では営業は全人格的な実力が試される業務といえるのです。」(138頁)

そう。

営業とは、詰まるところ、全人格のぶつかり合いなのです。

いわゆる売れっ子のビジネスパーソンを観察すると、そのことがよくわかります。

テクニックでは如何ともしがたいものであり、努力でなんとかなる一定のレベル以上については「できる人にはできる」「できない人はできない」という領域なのかもしれません。

解雇387 新型コロナウイルス感染対策として指示されていたマスク着用をしなかったこと等による解雇が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、新型コロナウイルス感染対策として指示されていたマスク着用をしなかったこと等による解雇が無効とされた事案を見ていきましょう。

近鉄住宅管理事件(大阪地裁令和4年12月5日・労判131号2頁)

【事案の概要】

本件は、分譲マンション、賃貸マンションの管理等を業とするY社の従業員であったXが、合意退職はしておらず、また、解雇は無効であるとして、未払賃金等を請求し、また、一方的な配置転換(労働条件変更)を迫り、これを拒否すれば自主退職するしかないと迫ったY社の行為及び解雇により法的保護に値する人格的利益を違法に侵害されたとして、不法行為に基づき、慰謝料等を請求した事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、本件マンションで管理員として業務を遂行する際や、通勤の際に、日常的にマスクを着用していなかったことがうかがわれる。そうすると、Xは、本件マンションの管理員として職務を遂行する際に、使用者であるY社からの業務上の指示に従っていなかったことになる。
しかし、Xは過去にもY社から同様の行為について注意を受けていたというような事情はうかがわれないこと、潜在的には、(Xのマスク不着用を)連絡をした住民以外にもマスクを着用しないXについて不快感や不安感を抱いた本件マンションの住民がいたことがうかがわれるものの、現実にY社に寄せられた苦情は1件にとどまっていること、Xの行為が原因となって、本件マンションの管理に係る契約が解約されるというような事態は生じていないこと、E課長もXに対してマスク未着用に関する注意をしていないことを認めており、ほかに、Y社がXに対してマスク未着用に関する注意をしたことを認めるに足りる証拠もないこと、Xが新型コロナウイルスに感染したことで、本件マンションの住民あるいはY社内部において、いわゆるクラスターが発生したというような事態もうかがわれないことなどからすれば、新型コロナウイルス対策の不履行に関する一連のXの行動が規律違反に当たるとはいえるものの、同事情をもって、Xを解雇することが社会通念上相当であるとはまではいうことができない。

異論もあるかと思いますが、解雇は重すぎるというのが裁判所の判断です。

いきなり解雇をするのではなく、注意・指導を行うことの大切さがよくわかる事案です。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介1885 2022-これから10年、活躍できる人の条件(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から11年前に出版された本ですが、再度、2023年の今、再度、読み返してみました。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

松陰曰く『顧ふに人読まず。即し読むとも行はず(考えるに人は書を読まない。もし読んでも得た知識を行動に表すことをしない)』」(201頁)

私は、読書は仕入れだと思っています。

これは、決して読書に限った話ではなく、セミナー受講等も同様です。

本を読んでも、セミナーを受けても、行動に反映させなければ、時間の無駄遣いになってしまいます。

忙しくて本を読む時間がないという方もいると思いますが、その忙しさをいかになくすかを考えるために本を読むのです。

有期労働契約117 合理的期待を初回の更新では認め無効としたが、以降の更新では認めなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、合理的期待を初回の更新では認め無効としたが、以降の更新では認めなかった事案を見ていきましょう。

グッド・パートナーズ事件(東京地裁令和4年6月22日・労経速2504号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で有期労働契約を締結していたXが、Y社から平成31年3月31日をもって有期労働契約につき雇止めをされたところ、本件雇止めは無効である旨主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、上記労働契約に基づき、同年4月分から令和3年12月分までの未払賃金合計1108万8000円+遅延損害金の支払並びに令和4年1月分以降の未払賃金として月額33万6000円の支払を求め、さらに、本件雇止めが不法行為に当たると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料50万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、40万5570円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件メールは、本件契約の更新が確定したことを内容とするものであるから、これを受信したXにおいて、初回の契約満了時である同年3月31日の時点において、本件契約が更新されることについて強い期待を抱かせるものであったということができる。そうすると、Xには、同日時点において、本件契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる。

2 本件メールの内容は、2か月間と期間を明示して、本件契約の更新が確定したことを内容とするものであり、令和元年6月以降の更新について期待を生じさせるような内容ではなかったというべきである。
そして、本件メール以外に、Y社において同月以降の更新につき期待させるような言動があったと認めるに足る証拠はなく、本件契約を締結した当初において、長期にわたる更新が予定されていたことを窺わせる事情も認められない。加えて、本件雇止めが本件契約の初回の更新時にされたものであり、雇用継続に対する期待を生ぜしめるような反復更新もされていなかったことからすると、本件メールに記載のない二度目以降の契約更新について、Xが更新を期待することに合理的な理由があったと認めることはできない

3 Y社は、Xが平成31年4月の時点で再就職していたこと等をもって、Y社での就労意思を喪失していた旨主張する。
しかしながら、一般的に雇止めされた労働者が、当該雇止めの効力について争う場合において、生計維持のために新たな職を得ること自体はやむを得ない面があり、他社への就職をもって直ちに元の就労先における就労意思を喪失したと認めるのは相当でない

上記判例のポイント3はしっかり押さえておきましょう。

再就職による就労意思の喪失の論点はよく出てきますので、裁判所の考え方の傾向を知っておくことはとても大切です。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。