Daily Archives: 2023年3月30日

賃金246 会社による賃金の消滅時効援用が権利の濫用にあたるか(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、会社による賃金の消滅時効援用が権利の濫用にあたるかについて争点となった事案を見ていきましょう。

酔心開発事件(東京地裁令和4年4月12日・労判1276号54頁)

【事案の概要】

本件は、未払残業代、付加金、不法行為に基づく損害賠償等を請求する事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社はXに対し、88万8788円+遅延損害金を支払え。

2 Y社はXに対し、64万3767円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、故意に割増賃金の支払を怠っていたY社が消滅時効を援用するのは権利の濫用であると主張するが、消滅時効制度は故意に義務の履行を怠っていたものを時効の援用権者から排除する仕組みをとっておらず、また、本件全証拠を検討しても、Y社がXによる権利行使を殊更に妨げたとも認められないことからすると、Y社が本件割増賃金請求について消滅時効を援用することが権利の濫用に当たると認めることはできない

2 また、Xは、当時、割増賃金の請求を委任していた前代理人らが催告を適時に行わなかったために消滅時効が完成してしまったのであり、それにもかかわらずY社が消滅時効を援用するのは、前代理人らの拙劣な対応の咎をXに押し付けることによって不当に利得を得るものであって、公序良俗に反するなどとも主張するが、X側の事情を理由にY社が時効の利益を受けることが制限される理由はない。この点に関するXの主張は、独自の主張と言わざるを得ず、採用しない。

未払賃金等の請求を行う場合には、消滅時効期間が他の債権と比べて短いため、対応を誤ると原告としては上記のような主張をせざるを得なくなります。

労働者側としては気を付けなければいけないポイントの1つです。

使用者側としては上記のような考え方を押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。