Daily Archives: 2023年3月1日

賃金243 退職した元従業員に対する研修費用返還請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、退職した元従業員に対する研修費用返還請求に関する裁判例を見ていきましょう。

大成建設事件(東京地裁令和4年4月20日・労判1295号73頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に在籍中、社外研修制度により留学した後、Y社を退職したXが、本訴請求事件において、Xが、Y社に対し、令和2年6月分の賞与、同年6月分の賃金、立替金請求権に基づき、Xが立て替えた経費、退職金及び共済会退職一時給付金等の支払を求め、反訴請求事件において、Y社が、社外研修に要した費用はY社がXに貸与したものであり、Xとの相殺合意に基づき、上記費用の返還請求権及びこれに対する利息請求権と本訴請求債権とを相殺したとして、Xに対し、消費貸借契約に基づき、相殺後における上記費用の残額である約730万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求棄却

反訴請求認容

【判例のポイント】

1 XとY社との間で本件消費貸借契約が成立したかについて、Xは、本件誓約書に署名押印してこれをY社に提出したところ、本件誓約書には、規程10条及び細則3条に関する説明をY社から受け、これらの内容を全て了承した旨が記載されており、そして、規程10条には、返済義務が生じる場合が特定されており、また、貸与金の具体的な内容については、規程9条2項による委任を受けた細則において定められているところ、その内容に不明確な点はなく、消費貸借の目的の特定に欠けるところもなく、Xは、自らの規程や細則等をイントラネットから印刷し、総務担当者に対し、複数回にわたって、規程や細則に定められた細目的な事項に関連する質問をしたり、誓約書のひな型が規程の別紙として定められていることを教えたりしていたこと、本件誓約書における貸与金や相殺に関する記載について異議を述べることも説明を求めることもなかったことからすれば、Xは、本件誓約書の提出に当たって、規程及び細則並びに本件誓約書に記載された内容を十分に理解した上で、本件誓約書に署名押印したと認めるのが相当であるから、X・Y社間においては、本件誓約書の提出をもって本件消費貸借契約が成立したと認められる。

2 労基法16条が、使用者に対し、労働契約の不履行について違約金を定め又は損害賠償額を予定する契約の締結を禁じている趣旨は、労働者の自由意思を不当に拘束して労働契約関係の継続を強要することを防止しようとした点にあると解されるから、本件消費貸借契約が労基法16条に反するか否かは、本件消費貸借契約が労働契約関係の継続を強要するものであるか否かによって判断するのが相当であるところ、Y社における社外研修制度の下では、応募・辞退は任意であると定められており、Xも、自らの意思で本件研修への参加を決意したものであって、本件研修に参加するよう、強制されたり、指示されたりしたものではなく、また、本件研修は、応募や辞退、研修テーマ・研修機関・履修科目の選定がXの意思に委ねられていたこと、本件研修は、汎用性が高い内容を多く含むものであり、X個人の利益に資する程度が大きいこと、貸与金の返済免除に関する基準が不合理とはいえず、返済額が不当に高額であるとまではいえないことからすると、本件消費貸借契約が労働契約関係の継続を強要するものであるとは認められないから、本件消費貸借契約は労基法16条に違反するとはいえない

同種事案において結論を分けている事情がまさに判例のポイント2に記載されている点です。

請求が認められている裁判例と本件のように棄却されている裁判例を比較検討するとよくわかると思います。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。