おはようございます。
今日は、分限免職処分の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。
長門市・長門消防局事件(最高裁令和4年9月13日・労判128号2頁)
【事案の概要】
本件は、普通地方公共団体であるY市の消防職員であったXが、任命権者であるY市消防長から、地方公務員法28条1項3号等の規定に該当するとして分限免職処分を受けたのを不服として、Y市を相手に、その取消しを求める事案である。
原審(広島高裁令和9月30日)は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、本件処分の取消請求を認容すべきものとした。
Y市の消防吏員としての素質、性格等には問題があるが、上告人の消防組織においては、公私にわたり職員間に濃密な人間関係が形成され、ある意味で開放的な雰囲気が従前から醸成されていたほか、職務柄、上司が部下に対して厳しく接する傾向にあり、本件各行為も、こうした独特な職場環境を背景として行われたものというべきである。Xには、本件処分に至るまで、自身の行為を改める機会がなかったことにも鑑みると、本件各行為は、単にX個人の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、性格等にのみ基因して行われたものとはいい難いから、Xを分限免職とするのは重きに失するというべきであり、本件処分は違法である。
【裁判所の判断】
原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。
Xの請求を棄却する。
【判例のポイント】
1 本件各行為は、5年を超えて繰り返され、約80件に上るものである。その対象となった消防職員も、約30人と多数であるばかりか、Y市の消防職員全体の人数の半数近くを占める。そして、その内容は、現に刑事罰を科されたものを含む暴行、暴言、極めて卑わいな言動、プライバシーを侵害した上に相手を不安に陥れる言動等、多岐にわたる。
こうした長期間にわたる悪質で社会常識を欠く一連の行為に表れたXの粗野な性格につき、公務員である消防職員として要求される一般的な適格性を欠くとみることが不合理であるとはいえない。
また、本件各行為の頻度等も考慮すると、上記性格を簡単に矯正することはできず、指導の機会を設けるなどしても改善の余地がないとみることにも不合理な点は見当たらない。
さらに、本件各行為により上告人の消防組織の職場環境が悪化するといった影響は、公務の能率の維持の観点から看過し難いものであり、特に消防組織においては、職員間で緊密な意思疎通を図ることが、消防職員や住民の生命や身体の安全を確保するために重要であることにも鑑みれば、上記のような影響を重視することも合理的であるといえる。
2 そして、本件各行為の中には、Xの行為を上司等に報告する者への報復を示唆する発言等も含まれており、現に報復を懸念する消防職員が相当数に上ること等からしても、Xを消防組織内に配置しつつ、その組織としての適正な運営を確保することは困難であるといえる。
以上の事情を総合考慮すると、免職の場合には特に厳密、慎重な判断が要求されることを考慮しても、Xに対し分限免職処分をした消防長の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものであるとはいえず、本件処分が裁量権の行使を誤った違法なものであるということはできない。そして、このことは、Y市の消防組織において上司が部下に対して厳しく接する傾向等があったとしても何ら変わるものではない。
ちなみに、Xの本件各行為の主な内容は以下のとおりです。
①訓練中に蹴ったり叩いたりする、羽交い絞めにして太ももを強く膝で蹴る、顔面を手拳で10回程度殴打する、約2㎏の重りを放り投げて頭で受け止めさせるなどの暴行
②「殺すぞ」、「お前が辞めたほうが市民のためや」、「クズが遺伝子を残すな」、「殴り殺してやる」などの暴言
③トレーニング中に陰部を見せるよう申し向けるなどの卑わいな言動
④携帯電話に保存されていたプライバシーに関わる情報を強いて閲覧した上で「お前の弱みを握った」と発言したり、プライバシーに関わる事項を無理に聞き出したりする行為
⑤Xを恐れる趣旨の発言等をした者らに対し、土下座を強要したり、被上告人の行為を上司等に報告する者がいた場合を念頭に「そいつの人生を潰してやる」と発言したり、「同じ班になったら覚えちょけよ」などと発言したりする報復の示唆等
第一審、控訴審ともに分限免職処分は無効と判断しましたが、最高裁は有効と判断しました。
第一審、控訴審判決によれば、消防職員になると、上記のような滅茶苦茶な状況でも解雇は重すぎると。私、こんな職場、絶対やだ。
ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。