おはようございます。
今日は、大学非常勤講師の労働者性に関する裁判例を見ていきましょう。
国立大学法人東京芸術大学事件(東京地裁令和4年3月26日・労判ジャーナル128号28頁)
【事案の概要】
本件は、Y社が設置するa大学において非常勤講師を務めていたXが、Y社との間で締結していた期間を1年間とする有期の労働契約を被告が令和2年4月1日以降更新しなかったことにつき、労契法19条により従前と同一の労働条件で労働契約が更新されたとみなされる旨を主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、上記の更新拒否後の令和2年4月から約定の支払日である毎月20日限り月額4万7600円の賃金+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 Y社は、Xに対し、Y大学における講義の実施という業務の性質上当然に確定されることになる授業日程及び場所、講義内容の大綱を指示する以外に本件契約に係る委嘱業務の遂行に関し特段の指揮命令を行っていたとはいい難く、むしろ、本件各講義(Xが担当する授業)の具体的な授業内容等の策定はXの合理的な裁量に委ねられており、Xに対する時間的・場所的な拘束の程度もY大学の他の専任講師等に比べ相当に緩やかなものであったといえる。
また、Xは、本件各講義の担当教官の一人ではあったものの、主たる業務は自身が担当する本件各講義の授業の実施にあり、業務時間も週4時間に限定され、委嘱料も時間給として設定されていたことに鑑みれば、本件各講義において予定されていた授業への出席以外の業務をY社がXに指示することはもとより予定されていなかったものと解されるから、Xが、芸術の知識及び技能の教育研究というY大学の本来的な業務ないし事業の遂行に不可欠な労働力として組織上組み込まれていたとは解し難く、Xが本件契約を根拠として上記の業務以外の業務の遂行を被告から強制されることも想定されていなかったといえる。
加えて、Xに対する委嘱料の支払とXの実際の労務提供の時間や態様等との間には特段の牽連性は見出し難く、そうすると、Xに対して支給された委嘱料も、Xが提供した労務一般に対する償金というよりも、本件各講義に係る授業等の実施という個別・特定の事務の遂行に対する対価としての性質を帯びるものと解するのが相当である。
以上によれば、Xが本件契約に基づきY社の指揮監督の下で労務を提供していたとまでは認め難いといわざるを得ないから、本件契約に関し、Xが労契法2条1項所定の「労働者」に該当するとは認められず、本件契約は労契法19条が適用される労働契約には該当しないものというべきである。
指揮命令下に置かれていたとは評価できないとの理由から労働者性が否定されています。
労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。