おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。
今日は、通勤手当不正受給等を理由とした懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。
学校法人帝京大学事件(東京地裁令和3年3月18日・労判1270号78頁)
【事案の概要】
本件は、Y社との間で労働契約を締結し、Y社が設置する大学において准教授の地位にあったXが、通勤手当を不正に請求したなどとして、Y社から平成30年10月9日付けで免職処分とされ、同月22日までに退職願を提出しなかったため、同月31日付けで懲戒解雇されたことについて、Y社に対し、同処分は懲戒権を濫用したものであり無効であるとして、労働契約上の地位の確認を求めるとともに、同懲戒解雇後である同年11月から毎月22日限り月額賃金48万6045円及び平成30年12月分の賞与額113万2888円+遅延損害金の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 本件通勤手当受給及び本件無届通勤は、採用当初より、支給される通勤手当と実際に通勤に係る費用との間の差額を利得する目的で、かつ、届け出た公共交通機関ではなくバイク通勤をする意図でありながら、その目的、意図及び実際にバイク通勤を継続した事実をY社に秘匿するため、あえてY大学の構内の職員用無料駐車場ではなく、本件店舗に駐輪し、しかも、公共交通機関による通勤手当とバイク通勤による実費との差額を利得するにとどまらず、あえて遠回りの通勤経路を届け出ることにより、公共交通機関による通勤手当を受給していた場合に本来得られる金額より更に高額の通勤手当を6年以上の長期にわたり受給し続けたものであり、Y社に採用後一度も通勤定期券を購入したことがないことも踏まえると、受給額全額について詐欺と評価し得る悪質な行為であって、その経緯や動機には酌むべき事情は見当たらない。
本件通勤手当受給によってY社が被った損害は、合計約200万円と多額であり、仮にXがバイク通勤ではなくY社指摘経路によって通勤していた場合であっても、X届出経路との差額が100万円以上生じることとなり、生じた結果は重大である。
2 Xは、本人尋問において反省している旨供述するものの、本件懲戒処分の前に行われたY社調査委員会及びY社懲罰委員会においては、具体的な反省の弁を述べることがないばかりか、大学の玄関においてバイク、タクシー、自家用車で通勤している者をそれぞれ確認して通勤届出と照合して指導するのがY社の事務職員の職責であるのに、自分は注意されたことはなく、Y社の方で注意すべきであったなどとY社に責任を転嫁する言動に及んだ上、不正受給の金額を明示されたにもかかわらず、本件懲戒処分以前に自主的に受給した通勤手当を返還もすることなく、本件懲戒処分後にY社からの訴訟提起を受けてこれを返還したにすぎないことも踏まえると、本件懲戒処分時において本件通勤手当受給及び本件無届通勤につき真摯に反省していたものとは到底認められない。
以上に判示した本件通勤手当受給の悪質性、これに係る経緯及び動機に酌むべき事情が見当たらないこと、結果の重大性、真摯な反省が見られないことに加え、Y社において他の教職員が同様の不正受給を行うことを抑止する現実的な必要性が高いことも踏まえると、上記懲戒事由該当行為のみでも、戒告やけん責にとどまらず、免職を含む重い懲戒処分が相当である。
事案によっては、民事上の責任のみならず、刑事上の責任についても追及されることもあります。「魔が差した」では済まなくなりますので注意しましょう。
解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。