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今日は、派遣労働者の労災と国から派遣先会社への求償に関する裁判例を見ていきましょう。
丸八ガラス店(求償金請求)事件(福岡高裁令和3年10月29日・労判1274号70頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の工場で就労していた派遣労働者Aがガラス研磨機に手を巻き込まれて負傷した事故に関し、Aに対して労働者災害補償保険法に基づく保険給付を行った国が、本件事故はY社が本件機械について事故の危険を防止するため必要な措置を講ずべき義務を怠ったことによる第三者行為災害であり、国は労災保険法12条の4第1項に基づき労災保険給付額の限度でAがY社に対して有していた損害賠償請求権を取得したと主張して、Y社に対し、Aに対する労災保険給付額のうち703万1967円の求償+遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は、国の請求を棄却した。国は、これを不服として控訴した。
【裁判所の判断】
控訴棄却
【判例のポイント】
1 本件事故は、Aが開口部の内側まで左手をガラスの表面に添わせたままでいた結果発生したものとしか考えられないが、コンベアに載せたガラスは手を添えていないくても落下することはなく、そのことはA自身もそれまで3日間作業をした中で十分理解していたはずであるから、上記のような態様は、当時のAの習熟度や作業状況を考慮しても、想定することが困難なものといわざるを得ない。
したがって、本件機械の構造、本件工場における作業環境、Aが担当していた作業内容に加え、本件事故当時のAの習熟度や作業状況を考慮しても、本件機械の開口部が「労働者に危険を及ぼすおそれのある部分」に当たり、Y社において、その危険を防止するために、開口部手前に覆いを付けるなどの措置を講じる必要があったとは認められない。
2 国は、当審において、Y社の注意義務違反の内容として、原審から主張している安衛法20条1号及び安衛規則101条1項違反に加え、安全衛生推進者等を選任する義務(安衛法12条の2及び安衛規則12条の3)、安全衛生教育を実施する義務(安衛法12条の2,同法10条1項2号、同法59条1項)、労働者が安全に作業しているが注意を払う義務をいずれも懈怠していたとの主張を追加したが、これらの主張を原審においてすることは容易であったというべきであり、また、安全衛生教育や労働者の作業に注意を払う義務の内容の特定及びその履行の有無に関する主張立証は、未だ尽くされたとはいえず、これらにつき審理を尽くすには、当審において更なる審理期間を要することとなる。
したがって、国が当審において追加した上記各注意義務違反に係る主張は、重大な過失により時機に後れて提出した攻撃防御方法であり、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認められるから、民訴法157条1項に基づき、これを却下するのが相当である。
第三者行為災害に該当する場合、本件同様の請求がなされることがありますので、注意が必要です。
本件事案では、派遣先会社の注意義務違反が否定されたため、国の請求が棄却されています。
日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。