おはようございます。
今日は、勤務時間外の酒気帯び運転で物損事故を発生させた運転手に対する退職手当支給制限処分が有効とされた事案を見ていきましょう。
東京都公営企業管理者交通局長事件(東京地裁令和4年3月17日・労経速2494号32頁)
【事案の概要】
地方公営企業である東京都交通局が運営する都営バスの運転手であったXは、令和2年9月9日、東京都交通局の管理者である東京都公営企業管理者交通局長から、Xが勤務時間外に酒気帯び運転をし、交通事故を発生させたことを理由として、懲戒免職処分及び一般の退職手当の全部を支給しないこととする退職手当支給制限処分を受けた。
本件は、Xが、Y社に対し、本件不支給処分は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであると主張して、本件不支給処分の取消しを求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 本件非違行為は、酒気帯び運転によって物損事故を発生させたというものであり、勤務時間外に行われたものであるとはいえ、都営バスの運転手という原告の職務及びその責任に照らせば、強い非難に値する行為であるというべきである。このことは、Xの呼気から検出されたアルコール濃度が、呼気1リットルにつき0.15ミリグラムであったことにより、左右されるものではない。
また、Xは、都営バスの運転手として、長年にわたる勤務歴を有し、複数回の表彰歴も有するものの、他方で、勤務中に2回の交通事故を発生させたことからすると、Xの勤務の状況に照らして一部の支給制限にとどめるべき事情があるとまではいえない。
さらに、Xは、①本件非違行為の前日の午後11時頃以降、焼酎の水割り4、5杯とバーボンのロック3杯を飲み、アルコールが体内に残っているという認識を有していながら、知人を車で送っていくと誘い、知人を同乗させて飲酒運転を開始したこと、②普段から、自家用車を運転して飲食店に向かい、深夜まで飲酒をした後、午前7時か午前8時頃、自家用車を運転して帰宅するという行為を行っていたことからすると、Xには飲酒運転に対する規範意識が欠如していたといわざるを得ず、当該非違に至った経緯に関し、Xに有利に斟酌すべき事情は見当たらない。
そして、本件非違行為は、都営バスの運転手であるXが酒気帯び運転をして交通事故を発生させたものであるから、都営バスの安全・安心な運行に対する都民の信頼を失わせるものであって、都民の理解を得て都営交通を円滑に運営するという公務の遂行に及ぼす支障の程度は決して小さいものとはいえない。
そうすると、Xが本件事故発生後速やかに本件非違行為を勤務先に報告したことや罰金を納付したことなど、非違後におけるXの言動を原告に有利に斟酌したとしても、一般の退職手当の全部を不支給とした本件不支給処分は、本件解釈運用方針に沿ったものであるというべきであり、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとは認められない。
都営バスの運転手の酒気帯び運転の事案です。
他の類似の裁判例と比較したときに、本裁判例を妥当と考えるか厳しいと感じるかは人によるかと思います。
日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。