おはようございます。
今日は、業務上災害により後遺障害の決定を受けた原告の労災民訴の請求が、意図的な負傷として棄却された事案を見ていきましょう。
善国工業事件(東京地裁令和4年3月30日・労経速2494号32頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の元従業員であるXが、Y社に対し、Y社において就業中に負傷したとして、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権に基づき、2232万7787円+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 Xは、本人尋問において、本件事故が起こった時の状況について、おおむね次のように述べる。そして、このような状況の下、誤って右足でペダルを踏んでしまったと供述するものである。
「Xは、椅子に座り、左足はペダルの左側に、右足はペダルの右側に、ちょうど両足でペダルを挟む形で、両足ともに接地していた。その後、原告は、試し材を取りに行こうと思い、プレス機から離れようと、椅子から立ち上がりながら、両膝の後ろで椅子を押し下げ、左足に重心を置いて、左足を椅子よりも外に出した。そして、右足も左に寄せるように動かすことで、ちょうど右足でペダルをまたぐような形になった。」
「そして、椅子から腰を上げて立ち上がるまでの間のちょうど真ん中くらいのタイミングで、ダイセットの上部の、真ん中より若干左寄りのところに、こびりつくような抜きカスを見つけた。そこで、とっさに左手を出し、左の中指の爪で引っかいて取ろうとした。」
2 しかしながら、仮に、上記供述のとおり、体が左方向に動いており、重心も左足に移っているのであれば、接地している右足も、これに応じて左上方向に動くはずであるから、ペダルをまたぐような形になったという右足で、床面から18cmの高さにあるペダルの上面を、上から下に向けて垂直に踏み込むことは、身体構造上、困難である。
Xが、上述するような状態からペダルを踏み込むためには、むしろ右側に重心移動する必要があるところ、そのような状況にあったとは見受けられない。
また、Xは、右足の内側がペダルに引っ掛かった可能性があるとも述べる。しかしながら、本件プレス機のペダルは、意識して踏み込まないと時々反応しなかったり、踏み込みが甘いとプレスできないことがあるなど、通常は、それなりの力で踏み込まないと作動しないというのであり、引っ掛かった程度で作動するものではないといえる。
このようなXの上記供述内容の不合理性は、ペダルを誤って踏んだという、Xの主張の根幹部分を揺るがすものであり、そうすると、Xの、ペダルを誤って踏んだという旨の供述は信用することができない。
この点、進行協議期日におけるXの事故状況の再現内容にも、上記指摘と同様の不自然さを認めることができる。
さらには、XにはY社やY社の代表者から借入れがあるなどして金銭的に余裕がない状態であったことが認められるところ、過去に同様の事故を起こして保険給付を受けた経験があること、今回の事故によって得られる経済的利益は原告の収入と比較すると相当高額といえることなどの事情を鑑みると、Xが故意に本件事故を生じさせものとして矛盾がない。
そうすると、Xは意図的にペダルを踏み込んだものと認めるのが相当であり、Xの負傷について、Y社の安全配慮義務違反があったと認めることはできない。
よって、その余の点について判断するまでもなく、Xの請求には理由がない。
労災認定された事件で、使用者側の過失が否定されることはありますが、本件のように労働者が意図的に負傷したと判断される例は多くありません。
使用者側はあきらめずに訴訟内でも主張を尽くすことが求められます。
日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。