おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。
今日は、警備員の休憩時間の労働時間該当性が否定された事案を見ていきましょう。
全日警事件(静岡地裁令和4年4月22日・労経速2495号3頁)
【事案の概要】
本件は、新幹線沿線警備業務の隊員であったXら2名が、雇用主であったY社から休憩場所を指定され、携帯電話に出動要請があれば出勤できる態勢を維持し続けており、休憩時間帯が労働時間にあたるとして、主位的に時間外手当を請求し、予備的にはY社が休憩時間を自由に利用させるべき債務を履行しなかったとして慰謝料請求を行った事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 実作業に従事していない仮眠時間であっても、労働からの解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間に当たるというべきであり、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているということができる。
ただし、仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられ、実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情が認められる場合においては、労働基準法の労働時間には当たらないと解される(最判平成14年2月28日)。
2 これを本件について見ると、2時間の休憩時間中にJRからの緊急要請があった場合には直ちに相当の対応をすることが義務付けられているものの、静岡隊の隊員が休憩時間中に出動要請を受けたのは、平成30年度に1回、令和元年度に1回であり、隊員1人当たり2年に1回程度しかない。いずれも休憩時間中に出動した後、代替の休憩時間を取得している。しかも、いずれの要請も悪天候時点検であったから、当日の天候により予測できるものであった。そもそも新幹線の線路等はJRが保守点検を尽くしており、Y社の警備業務は補佐的役割であるので、勤務時間中も含めた静岡隊への出動要請は年10回前後であるし、休憩時間中の出動要請に対して対応が遅れてもクレームや懲戒の対象にはならない。
また、Y社においては、休憩時間中の過ごし方も、多くの者はY社が選定した休憩場所で仮眠を取っているが、その場所から車で移動して別の場所で仮眠を取ることやトイレやコンビニに行くなど自由に過ごすことも許されている。そして、このように休憩時間中自由に過ごせることは、マニュアルが作成され研修が行われて警備隊員は熟知しており、Xらもトイレやコンビニに行ったりして自由に過ごし、管理者から注意を受けることもなかった。
以上の事実からすると、Y社における休憩時間については、JRからの緊急要請に対して直ちに対応する必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に対応すべき義務付けがされていないと認めることができるような事情があるというべきである。
したがって、Y社における休憩時間は、労働基準法の労働時間に当たるとは認められない。
警備会社の仮眠時間の労働時間該当性が裁判で問題となることは少なくありませんが、本件のような勤務状況が保障されている現場は、実際にはそれほど多くないと思います。
多くの事案で手待時間(労働時間)と判断されていますので、運用にはくれぐれも注意が必要です。
なお、判例のポイント1記載の最高裁の判断は有名ですのでしっかり押さえておきましょう。
日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。