おはようございます。
今日は、賃金規程変更の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。
インターメディア事件(東京地裁令和4年3月2日・労判ジャーナル127号44頁)
【事案の概要】
本件は、y社の元従業員Xが、Y社に対し、労働契約に基づき、未払割増賃金等の支払、付加金等の支払、会社従業員及び代表者のパワーハラスメントによって精神的及び身体的苦痛を受け、退職を余儀なくされたことにより、賃金6か月分の額に相当する損害が生じたなどとして、民法709条、715条1項及び会社法350条に基づき、損害賠償金180万円等の支払を求め、これに加え、労働契約に基づき、未払の退職一時金約52万円等の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
未払割増賃金請求、損害賠償請求は一部認容
退職一時金請求は棄却
【判例のポイント】
1 本件規定を導入する賃金規程の変更の効力に関して、本件変更について、労働者の自由な意思に基づいて合意がされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということはできないから、これによりXの労働条件が変更されたと認めることはできず、また、労働契約法10条本文に基づく変更の効力について、本件変更は、労働者にとって重要な労働条件である賃金に関する変更であるところ、これにより労働者の受ける不利益の変更の程度は、重大であり、他方で、変更の必要性については、Y社において、以前から会社内においてみなし残業代という考え方があったなどと主張するのみであって、上記のような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性があるものとは認められず、また、変更の内容についても、56時間ないし42時間もの長時間の時間外労働につき法の定める割増賃金を請求することができなくなるという、必ずしも合理的とはいい難いものであり、上記不利益に対する代償措置も、月額2万円程度の手取り給与の増額のみであって、十分とはいい難く、さらに、本件変更について労働者との間で十分な交渉がされた形跡は認められないから、本件変更は、合理的であるとは認められず、X・Y社間の労働契約の内容を変更する効力は認められない。
賃金に関する不利益変更を行う場合には、減額幅にもよりますが、かなり有効要件が厳しいため、安易に変更すると多くの場合、無効と判断されます。
手続を行う場合には、必ず顧問弁護士に相談の上、慎重に進めましょう。