おはようございます。
今日は、人事上の最終権限を有しない社員の管理監督者性が認められた事案を見ていきましょう。
土地家屋調査士法人ハル登記測量事務所事件(東京地裁令和4年3月23日・労経速2490号19頁)
【事案の概要】
本件は、土地家屋調査士法人であるY社の社員兼従業員であったXが、Y社に対し、①雇用契約に基づき、令和2年2月分以前の未払残業代527万9952円+遅延損害金の支払、②雇用契約に基づき、同年3月分以降の未払残業代86万1219円+遅延損害金、③労働基準法114条に基づき、付加金407万4886円+遅延損害金の支払、④Y社がXに対してした同年7月10日付け普通解雇が無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、並びに、⑤民法536条2項に基づき、本件解雇後の賃金+遅延損害金の支払を、各求めた事案である。
【裁判所の判断】
Y社はXに対し、1万2121円+遅延損害金を支払え。
Y社はXに対し、付加金1万2121円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 職務権限について、Xは、Y社代表者とともに、Y社設立時からの社員であり、社内でY社代表者に次ぐ地位であった。Y社における人事上の最終権限はY社代表者が有していたが、これは、Y社代表者が経営と営業、Xが登記申請等の現場実務の取り仕切りという社員間の役割分担があったことに起因する。
現場実務の遂行方法の取り決めや現場での従業員の指導はY社代表者が口を挟むことはなく、Xに一任されていた。名古屋事務所の開設等の重要な経営事項についても、Xに相談の上で決定されていたことがうかがわれる。
2 勤務態様について、Xは、勤務時間中に歯科医院に通院するなどしていたが、仕事を抜けた時間に指導もなかった。また、平成31年1月以降は、自らの裁量で休日出勤や代休の日を決めていた。
3 待遇について、Xは平成30年以降は月額60万円の報酬を得ていて、同じ土地家屋調査士の資格者である他の社員2名よりも月額で10万円以上も高く、他の従業員の基本給やXの前職での報酬水準(年収450万円程度)よりも大幅に高い。
4 以上によれば、Xは、経営者(Y社代表者)と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また、そのゆえに、待遇及び勤務態度においても、他の一般労働者に比べて優遇措置が講じられていたということができ、実質的に上記のような法の趣旨が充足されるような立場にあったと認められるから、労基法41条2号の管理監督者に該当するものと認めるのが相当である。
開かずの扉で有名な管理監督者性ですが、今回の事案では珍しく扉が開きました。
いずれにせよ、世の管理職の圧倒的多数は管理監督者としては認められませんのでご注意ください。
労務管理は事前の準備が命です。顧問弁護士に事前に相談することが大切です。