Monthly Archives: 11月 2022

本の紹介1336 応援する力#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から7年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

タイトルは応援する側の視点ですが、応援されるために必要なことも書かれています。

特に若手のみなさんは、応援されるために必要な要素を知ることが大切だと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『応援されやすい』人は、お客さんに褒められ、感謝されることによって、ポジティブな気持ちになり、さらにモチベーションを高めていきます。より工夫を重ね、お客さんに喜んでもらおうと頑張っていくのです。一方、何の工夫もせず、中途半端な仕事しかしない人は、感謝される機会もないので、モチベーションが下がっていき、どんどん投げやりな気持ちになっていきます。そうやって『応援される人』と『応援されない人』の差はどんどん開いていってしまうのです。」(156頁)

周りから応援されるということは、とても大切な素質の1つです。

力がないうちは特にそうです。

かわいげがあり一生懸命である人を周りは放っておきません。

こういう人には、自然と手を差し伸べてくれ、チャンスを与えてくれます。

「ご縁」と呼ばれる見えない糸を結びつけるのも手放すのも、すべては自分の日頃の姿勢や行いが関係しています。

うまくいっている人は、うまくいっているなりの理由が必ずあるのです。

セクハラ・パワハラ71 従業員のパワハラ被害申告に対する債務不存在確認請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、従業員のパワハラ被害申告に対する債務不存在確認請求を見ていきましょう。

ユーコーコミュニティー従業員事件(横浜地裁相模原支部令和4年2月10日・労判1268号68頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、XがY社の従業員からマタニティハラスメントやパワーハラスメントを受けたとしてY社に対し謝罪文等を要求しているが、いずれのパワハラ等も存在しないとして、Y社のXに対する上記パワハラ等にかかる安全配慮義務違反による債務不履行、使用者責任又は会社法350条に基づく損害賠償債務及び謝罪文の交付義務が存在しないことの確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

訴え却下

【判例のポイント】

1 パワハラ等が不法行為に該当するか否かは、行われた日時場所、行為態様や行為者の職業上の地位、年齢、行為者と被害を訴えている者が担当する各職務の内容や性質、両者のそれまでの関係性等を請求原因事実として主張して当該行為を特定し、行為の存否やその違法性の有無等を検討することにより判断されることとなる。

2 別紙発言目録を見るに、発言時期、発言者、発言内容を記載しているようではあるものの、発言時期については、令和元年4月(ママ)と記載されているのみで、日時の記載はない全く同じ発言内容であっても、日にち等が異なるという場合、それぞれ別の行為として不法行為(パワハラ等)該当性の判断をすることとなる。また、同目録には、発言者の氏名と発言内容が記載されているのみで、職務内容や地位、行為の態様等は全く不明である。
以上のとおり、請求の趣旨1については、他の債務から識別して、その存否が確認しうる程度に特定がされていると認めることは困難と言わざるを得ない。

3 たしかに、債務不存在確認請求の訴えにおいて、権利を主張する者の主張内容によっては、その請求の趣旨の特定を細かく行い難くなること(例えば、日時については年月日頃という以上に特定ができない等)はあると思われるが、だからといって、特定の程度が直ちに緩和されるわけではない。本件についてみれば、行為者の職業上の地位、年齢、行為者と被害者を訴えている者(被告)が担当する各職務の内容や性質等をY社が特定して主張することは可能と解されるし、行為の日時・場所についても「月」までの特定ではなく「日」(最低でも何日頃)の特定をした上で社内でのことなのか社外でのことなのか等の特定は可能と解されるが、Xは、これらの特定をしないから、その請求は、やはり特定を欠く(他の債務から識別して、その存否が確認しうる程度の特定がない)と言わざるを得ない。

今回は債務不存在確認の訴えですが、ハラスメント事案全般について参考になります。

行為等の特定をできる限り行う必要がありますので、事前の準備が鍵を握ることは言うまでもありません。

日頃の労務管理におけるエビデンスの残し方については顧問弁護士に相談をすることをお勧めいたします。

本の紹介1335 一億人に伝えたい働き方#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

複数の会社の経営者が自社の働き方を説明してくれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

みんな、発明は難しいと言うけど、決してそんなことはありません。結局は、組み合わせなんですよ。世の中が複雑になればなるほど、組み合わせに使える要素がいっぱいあるんですから」(140頁)

これはずっと昔から言われ続けていることですね。

無から有を生み出す必要はなく、既存のパターンや構成要素を少し変更することによって、多くの「新しい」価値やサービスが生み出されています。

アイデアそれ自体にはほとんど価値はなく、それを形にして運用し続けることこそ価値があるのです。

今後、ますます価値を生み出す人材か否かの二極化が広がっていくでしょう。

なんとなくルーティーンをこなしていれば普通に生きていけた時代は、終焉を迎えようとしています。

労働時間82 保育園における保育士の時間外割増賃金請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、保育園における保育士の時間外割増賃金請求について見ていきましょう。

社会福祉法人セヴァ福祉会事件(京都地裁令和4年5月11日・労判1268号23頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間の労働契約に基づき、Y社の経営する保育園において、平成17年4月1日から退職した令和2年3月31日まで保育士として勤務したXが、未払割増賃金等の請求をした事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、849万2883円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、10万0411円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金633万7251円を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、令和元年度には、幼児クラスの一人担任を務めていたところ、本件事業場では、保育士の配置基準を満たす最低限の人数の職員で運営がされていたことから、一人担任の保育士は、休憩時間であっても保育現場を離れることができず、連絡帳の記載など必要な業務を行って過ごしていたこと、また、食事さえも、業務の一部である食事指導として基本的には園児と一緒にとることになっていたこと、Xは、平成30年度には、保育の担任はしていなかったものの、一人担任の保育士に交替で30分間の休憩を取らせるために、それらの保育士の担当業務を肩代わりしていたことからすれば、Xは、本件事業場では、休憩をとることができていなかったと認めるのが相当である。

2 Y社は、Xが、残業禁止命令に違反し、申請手続も履行していなかったとして、Xの主張する残業時間をもって、Y社の指揮命令下にある時間であるとも、Y社の明示の指示により業務に従事した時間であるともいえないと主張するが、Y社が主張する残業禁止命令や申請手続は、X以外の職員からも遵守されていなかったことが認められるから、この点に関するY社の主張は、そもそもその前提を欠くものであって、採用することはできない。

3 Y社は、本件事業場では、1か月単位の変形労働時間制を採用しているから、Xの時間外割増賃金はこれに従って計算されるべきと主張する。
労基法32条の2は、同法32条による労働時間規制の例外として、1か月以内の期間の変形労働時間制を定めるところ、これが認められるための要件の1つとして、就業規則等により、1か月以内の一定の期間(単位期間)を平均し、1週間当たりの労働時間が法定労働時間である週40時間を超えない定めをすることを要求している。この点、本件事業場に適用される勤務シフト表は、週平均労働時間が常時40時間を超過するものであって、労基法32条の2所定の要件を満たさないものであるから、Y社の主張する変形労働時間制の適用は認められないものと解するのが相当である。

4 Y社は、本件労働契約書記載の基本給額には、1か月あたり15時間分の時間外割増賃金が含まれていることから、時間外・深夜割増賃金を算定する際の基礎となるのは、本件労働契約書に記載されている基本給額から時間外割増賃金額を控除した金額と主張する。
しかしながら、本件年俸規程4条、6条によれば、基本給はその全額が時間外・深夜割増賃金の算定の基礎となるものとされていることから、かかる基本給の中に1か月あたり15時間分の時間外割増賃金が含まれているかのような本件労働契約書の記載は、就業規則の最低基準効に抵触し、無効と解するのが相当である(労働契約法12条)。

事前承認制も変形労働時間制も固定残業制も要件を満たしておらず無効と判断されています。

上記判例のポイント1は、人手不足社会日本において、今後ますます避けて通れない問題です。

これまでのような過度なサービス提供社会から大きくシフトチェンジしなければ会社の運営ができなくなると思います。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。

本の紹介1334 脳を丸裸にする質問力(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

質問力は、回答力と同じくらい重要です。

質問が上手な人は、ほぼ間違いなく仕事ができる人です。

詰まるところ、質問のしかたや質問の内容を見れば、その人の力量がわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『弱い犬ほどよく吠える』というのはよく言ったもので、自分からペラペラと自慢話をしているような人は、道を極めている人ではない。これは多くの人を取材して感じることだが、大会社の社長ほど腰が低い。時にその腰の低さに驚かされることが多かったが、考えてみれば当たり前である。彼らは偉ぶる必要がないのだ。」(86頁)

みなさんのまわりにも、自分の自慢話や日常生活の出来事を延々と話す人、いませんか(笑)?

聞き手の無関心もそっちのけで、自分が話したいことを話し続ける。

こういう人、だいたい、仕事ができません(笑)。

いかに相手の話を引き出すか。

そのためにどのようなパスを出せばよいか。

会話を制するのは、話し手ではなく、いつだって聞き手です。

有期労働契約116 有期雇用契約満了に伴い、新時給単価による無期契約が時給単価の変更について保留付きで締結された結果、旧単価適用の有期契約の更新が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、有期雇用契約満了に伴い、新時給単価による無期契約が時給単価の変更について保留付きで締結された結果、旧単価適用の有期契約の更新が否定された事案を見てきましょう。

アンスティチュ・フランセ日本事件(東京地裁令和4年2月25日・労経速2487号24頁)

【事案の概要】

本件は、フランス語の語学学校を運営するY社の従業員(非常勤講師)であるXらが、Y社に対し、それぞれ、旧時給表に基づく報酬を受けるべく雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め(請求1)、X1が、Y社に対し、雇用契約に基づき、平成30年4月支払分から令和2年8月分までの旧時給表に基づき算出される未払分合計181万5717円+遅延損害金の支払(請求2)、X2が、Y社に対し、雇用契約に基づき、平成30年4月分から令和2年8月分までの報酬の未払分合計112万2990円+遅延損害金の支払(請求3)、Xが、Y社に対し、雇用契約に基づき、平成31年4月分から令和2年8月分までの報酬の未払分合計109万3266円+遅延損害金の支払(請求4)、同契約上の割り当てられた講座の時間数が所定の時間を下回る場合の補償金の支払に係る合意に基づき、平成30年及び令和元年の補償金合計177万7945年+遅延損害金の支払(請求5)をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、X3に対し、99万2938円+遅延損害金を支払え

Xらのその余の請求をいずれも棄却する

【判例のポイント】

1 民法629条1項は、期間の定めのある雇用契約について、期間満了後も労働者が引き続きその労働に従事し、使用者がこれを知りながら異議を述べない場合に、労働者と使用者の従前の雇用関係が事実上継続していることをもって従前と同一の条件で雇用契約が更新されたものと推定する趣旨の規定である。
しかしながら、そもそも、Y社は、本件旧各契約の期間満了後の平成30年4月1日以後のXらの報酬を新時給表に基づき算出して支払っていた上、同日以後に行われた本件組合とY社の間の団体交渉でもY社が旧時給表を適用することについて一貫して明示に異議を述べていたのであるから、Y社が、本件旧各契約について、契約期間満了後もXらが引き続きその労働に従事することを知りながら異議を述べなかったということはできない
したがって、本件旧核契約が民法629条1項により更新されたということはできない

2 Xらの行為は、その後の団体交渉の経過に照らしても、Y社による本件新無期契約の締結の申込みに対し、Xらがその重要部分である賃金の定めについて異議をとどめた上で承諾したものとして、Xらが、同申込みを拒絶するとともに、期間の定めがなく、かつ、旧時給表が適用される雇用契約の新たな申込みをしたものとみなすのが相当である(民法528条)。
そして、労契法19条の更新とは、期間の定めのある雇用契約と次の期間の定めがある雇用契約が接続した雇用契約の再締結を意味するところ、以上のようなXらの新たな申込みは、期間の定めがある雇用契約の申込みではなく、期間の定めがない雇用契約の申込みであるから、同条にいう更新の申込みには当たらないというべきである
なお、労契法19条の更新の申込みについては、使用者の雇止めに対する何らかの反対の意思表示が使用者に伝わることをもって足りると解されるものの、Xらによる申込みの内容としては、本件新無期契約と本件新有期契約の選択肢がある中であえて本件新無期契約を選択し、契約期間については受け入れるとした上で、新時給表の適用についてのみ異議をとどめていること、当時、本件組合としても旧時給表の適用がある期間の定めのない雇用契約を希望していたことからしても、期間の定めがある契約の更新の申込みの意思があったとはおよそ認められない
そうすると、本件旧各契約の更新については、Xらが、労契法19条の「有期労働契約の更新の申込み」をしたとは認められない。

労契法19条と民法における雇用に関する規定についての解釈が展開されています。

あまりお目にかからない争い方ですので、しっかりと押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。

本の紹介1333 先が見えない時代の「10年後の自分」を考える技術#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

2012年に出版された本ですが、10年後の現在も先が見えない時代であることは変わりないですね。

10年後はおろか3年後のことすらはっきりしない時代です。

未来の不確実性がますます増していく中で、長期的な計画はほとんど役に立ちません。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

目先のことしか考えることができない『その日暮らしの生活』、『昨日と同じ人生』から抜け出したければ、自分が変わるしかない。誰かが変えてくれることなど、ありえないからだ。」(33頁)

何度もくり返すが、今ほど『考えていなかった』コストが高い時代はない。漠然と生きていると、いろいろな出来事が『想定外』ということになってしまう。」(57頁)

まあ、当然のことです。

漠然となんとなく生きていける時代は、もう既に終了しております。

格差是正が叫ばれる中、格差は今後ますます開く一方です。

そんな時代において、誰かが自分の人生を変えてくれることを期待しても無駄です。

残念ながら、社会は、また、人生は、そのような仕組みにはなっていません。

社会、会社、景気、政府、親、上司のせいにしているうちは、状況は1ミリも好転しません。

愚痴、悪口、不満を言っているうちは、何にも変わらないのです。

人が寝ている時、休んでいる時、遊んでいる時に、自分の商品価値を高める努力を続けるほかありません。

人生は、自ら動かなければ、何一つ変わりません。

不当労働行為297 会社による研修事業のグループ会社への事業譲渡等について組合らに通知しなかったことの不当労働行為該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、会社による研修事業のグループ会社への事業譲渡等について組合らに通知しなかったことの不当労働行為該当性について見ていきましょう。

サイマル・インターナショナル事件(東京都労委令和4年2月1日・労判1267号92頁)

【事案の概要】

本件は、会社による、法人語学研修事業のグループ会社への事業譲渡、同事業部門の閉鎖に伴う契約社員および業務委託講師との契約の終了について、組合らが抗議するまで組合らに通知しなかったことが、支配介入の不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 組織再編後の本件労使間の経緯からすると、本件労働協約が組合支部に承継されたか否かはさておき、会社は本件労働協約の趣旨を十分に尊重した対応を執るべきであったといえ、本件事業譲渡が組合員らの契約の存続という労働条件に重大な影響を及ぼすものであったことを鑑みれば、会社は、本件事業譲渡について、従業員である組合員に通知する前又は同時期に組合に通知することが労使関係上求められていたといえる。

2 会社は、組合支部で役職を有するDに個別に通知していることから、同人から組合らに本件事業譲渡の件が伝えられるものと考えていた旨主張するが、従業員に対する通知をもって組合らへの通知に代えることはできないといわざるを得ない。

3 会社は、本件事業譲渡について、従業員である組合員に通知する前又は同時期に組合に通知することが労使関係上求められる状況にあったが、会社は、本件事業譲渡を従業員らに通知しながら組合らには抗議を受けるまで通知しなかったのであるから、会社の対応は、組合らの存在を軽視したものであったといわざるを得ない

上記命令のポイント1は言うまでもないところですが、命令のポイント2についてはしっかり理解しておかないと誤解・勘違いしてしまうかもしれませんね。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

本の紹介1332 サラリーマン・サバイバル(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

今から20年以上前に出版された大前研一さんの本です。

タイトルのとおり、サラリーマンが生き残るために必要なことが書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

退路を断って、これしか自分の生きる道はない、と思いこまなければいけない。その決意を持ってアフターファイブも週末も自己投資に励めば、世の中で実現できないことはほとんどないと思う。」(92頁)

同感。

人が休んでいるとき、遊んでいるときに自己投資を積み重ねた者勝ちです。

それを3年、5年、10年と継続すれば、その道のプロになれます。

そうすれば、嫌でもお声がかかりますよ。

平凡な人生を送るか。

エキサイティングな人生を送るか。

すべてはあなたの準備と努力次第。

労働時間81 不活動待機時間の労基法上の労働時間該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、不活動待機時間の労基法上の労働時間該当性について見ていきましょう。

システムメンテナンス事件(札幌高裁令和4年2月25日・労判1267号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、夜間当番中の労働時間のうち、実作業に従事した時間及び移動に要した時間に係る賃金の支払はあるが、待機時間に係る賃金の支払がないなどと主張して、Y社に対し、平成28年7月21日から平成30年9月20日までの期間に係る時間外労働等に対する未払賃金1185万0044円+遅延損害金の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金963万8110円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審が、未払賃金52万4315円+遅延損害金の支払を求める限度でXの請求を認容したところ、Xは敗訴部分を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、111万1884円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金22万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 当番従業員は、午後9時より後の時間帯については、事務所での待機を求められていたものではない。そして、Y社は、メンテナンス部門の従業員に対し、月10回程度の当番を割り当てた上、当番従業員に対し、当番従業員用の携帯電話を携行させ、社用車で帰宅させて、架電があった場合に応答し、必要な場合には現場対応するよう求め、札幌から遠方に出かけたり、飲酒したりすることを禁止していたが、それ以上に登板従業員の行動を制約してはおらず当番従業員は、帰宅して食事、入浴、就寝等をしたり、買い物に出かけたりなど、私的な生活・活動を営むことが十分に可能であると認められる
以上に加え、ベル当番の日に1回以上入電のある確率は約33%、入電のあった日における平均入電回数は約1.36回、入電があってから現場に到着し、作業を終了するまでに要する時間の合計は、平均すると、1時間13分程度であって、これらが多いとまではいえないことも併せると、Xが事務所に待機していない時間帯における不活動待機時間については、いわゆる呼出待機の状態であり、Xが労働契約上の役務の提供を義務付けられていたものではなく、労働からの解放が保障され、使用者の指揮命令下から離脱したものと評価することができるから、これが労働時間に当たると認めることはできない。

2 当番従業員は、ベル当番の際、事務所における待機中は、コンビニエンスストアに買い物に出かけたり、インターネットで動画を閲覧するなど自由に過ごすことができてはいたものの、当番従業員が2名とも事務所に待機していることで、顧客からの電話連絡が入ると、速やかに2名で現場に向かうことができるように事務所に待機していたこと、Y社代表者においても、Xを含む当番従業員が、所定の業務終了後も事務所に待機していることを認識し、これを容認していたと認めることができる。そうすると、Xが、事務所に待機していたと認められる時間帯については、労働からの解放が保障されているとはいえず、Y社の指揮命令下に置かれていたものとして、労働時間に当たるものと認めるのが相当である。

上記判例のポイント1と2は比較して押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。