労働時間82 保育園における保育士の時間外割増賃金請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、保育園における保育士の時間外割増賃金請求について見ていきましょう。

社会福祉法人セヴァ福祉会事件(京都地裁令和4年5月11日・労判1268号23頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間の労働契約に基づき、Y社の経営する保育園において、平成17年4月1日から退職した令和2年3月31日まで保育士として勤務したXが、未払割増賃金等の請求をした事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、849万2883円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、10万0411円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金633万7251円を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、令和元年度には、幼児クラスの一人担任を務めていたところ、本件事業場では、保育士の配置基準を満たす最低限の人数の職員で運営がされていたことから、一人担任の保育士は、休憩時間であっても保育現場を離れることができず、連絡帳の記載など必要な業務を行って過ごしていたこと、また、食事さえも、業務の一部である食事指導として基本的には園児と一緒にとることになっていたこと、Xは、平成30年度には、保育の担任はしていなかったものの、一人担任の保育士に交替で30分間の休憩を取らせるために、それらの保育士の担当業務を肩代わりしていたことからすれば、Xは、本件事業場では、休憩をとることができていなかったと認めるのが相当である。

2 Y社は、Xが、残業禁止命令に違反し、申請手続も履行していなかったとして、Xの主張する残業時間をもって、Y社の指揮命令下にある時間であるとも、Y社の明示の指示により業務に従事した時間であるともいえないと主張するが、Y社が主張する残業禁止命令や申請手続は、X以外の職員からも遵守されていなかったことが認められるから、この点に関するY社の主張は、そもそもその前提を欠くものであって、採用することはできない。

3 Y社は、本件事業場では、1か月単位の変形労働時間制を採用しているから、Xの時間外割増賃金はこれに従って計算されるべきと主張する。
労基法32条の2は、同法32条による労働時間規制の例外として、1か月以内の期間の変形労働時間制を定めるところ、これが認められるための要件の1つとして、就業規則等により、1か月以内の一定の期間(単位期間)を平均し、1週間当たりの労働時間が法定労働時間である週40時間を超えない定めをすることを要求している。この点、本件事業場に適用される勤務シフト表は、週平均労働時間が常時40時間を超過するものであって、労基法32条の2所定の要件を満たさないものであるから、Y社の主張する変形労働時間制の適用は認められないものと解するのが相当である。

4 Y社は、本件労働契約書記載の基本給額には、1か月あたり15時間分の時間外割増賃金が含まれていることから、時間外・深夜割増賃金を算定する際の基礎となるのは、本件労働契約書に記載されている基本給額から時間外割増賃金額を控除した金額と主張する。
しかしながら、本件年俸規程4条、6条によれば、基本給はその全額が時間外・深夜割増賃金の算定の基礎となるものとされていることから、かかる基本給の中に1か月あたり15時間分の時間外割増賃金が含まれているかのような本件労働契約書の記載は、就業規則の最低基準効に抵触し、無効と解するのが相当である(労働契約法12条)。

事前承認制も変形労働時間制も固定残業制も要件を満たしておらず無効と判断されています。

上記判例のポイント1は、人手不足社会日本において、今後ますます避けて通れない問題です。

これまでのような過度なサービス提供社会から大きくシフトチェンジしなければ会社の運営ができなくなると思います。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。