Daily Archives: 2022年11月8日

有期労働契約116 有期雇用契約満了に伴い、新時給単価による無期契約が時給単価の変更について保留付きで締結された結果、旧単価適用の有期契約の更新が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、有期雇用契約満了に伴い、新時給単価による無期契約が時給単価の変更について保留付きで締結された結果、旧単価適用の有期契約の更新が否定された事案を見てきましょう。

アンスティチュ・フランセ日本事件(東京地裁令和4年2月25日・労経速2487号24頁)

【事案の概要】

本件は、フランス語の語学学校を運営するY社の従業員(非常勤講師)であるXらが、Y社に対し、それぞれ、旧時給表に基づく報酬を受けるべく雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め(請求1)、X1が、Y社に対し、雇用契約に基づき、平成30年4月支払分から令和2年8月分までの旧時給表に基づき算出される未払分合計181万5717円+遅延損害金の支払(請求2)、X2が、Y社に対し、雇用契約に基づき、平成30年4月分から令和2年8月分までの報酬の未払分合計112万2990円+遅延損害金の支払(請求3)、Xが、Y社に対し、雇用契約に基づき、平成31年4月分から令和2年8月分までの報酬の未払分合計109万3266円+遅延損害金の支払(請求4)、同契約上の割り当てられた講座の時間数が所定の時間を下回る場合の補償金の支払に係る合意に基づき、平成30年及び令和元年の補償金合計177万7945年+遅延損害金の支払(請求5)をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、X3に対し、99万2938円+遅延損害金を支払え

Xらのその余の請求をいずれも棄却する

【判例のポイント】

1 民法629条1項は、期間の定めのある雇用契約について、期間満了後も労働者が引き続きその労働に従事し、使用者がこれを知りながら異議を述べない場合に、労働者と使用者の従前の雇用関係が事実上継続していることをもって従前と同一の条件で雇用契約が更新されたものと推定する趣旨の規定である。
しかしながら、そもそも、Y社は、本件旧各契約の期間満了後の平成30年4月1日以後のXらの報酬を新時給表に基づき算出して支払っていた上、同日以後に行われた本件組合とY社の間の団体交渉でもY社が旧時給表を適用することについて一貫して明示に異議を述べていたのであるから、Y社が、本件旧各契約について、契約期間満了後もXらが引き続きその労働に従事することを知りながら異議を述べなかったということはできない
したがって、本件旧核契約が民法629条1項により更新されたということはできない

2 Xらの行為は、その後の団体交渉の経過に照らしても、Y社による本件新無期契約の締結の申込みに対し、Xらがその重要部分である賃金の定めについて異議をとどめた上で承諾したものとして、Xらが、同申込みを拒絶するとともに、期間の定めがなく、かつ、旧時給表が適用される雇用契約の新たな申込みをしたものとみなすのが相当である(民法528条)。
そして、労契法19条の更新とは、期間の定めのある雇用契約と次の期間の定めがある雇用契約が接続した雇用契約の再締結を意味するところ、以上のようなXらの新たな申込みは、期間の定めがある雇用契約の申込みではなく、期間の定めがない雇用契約の申込みであるから、同条にいう更新の申込みには当たらないというべきである
なお、労契法19条の更新の申込みについては、使用者の雇止めに対する何らかの反対の意思表示が使用者に伝わることをもって足りると解されるものの、Xらによる申込みの内容としては、本件新無期契約と本件新有期契約の選択肢がある中であえて本件新無期契約を選択し、契約期間については受け入れるとした上で、新時給表の適用についてのみ異議をとどめていること、当時、本件組合としても旧時給表の適用がある期間の定めのない雇用契約を希望していたことからしても、期間の定めがある契約の更新の申込みの意思があったとはおよそ認められない
そうすると、本件旧各契約の更新については、Xらが、労契法19条の「有期労働契約の更新の申込み」をしたとは認められない。

労契法19条と民法における雇用に関する規定についての解釈が展開されています。

あまりお目にかからない争い方ですので、しっかりと押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。